「2ナノ半導体」量産挑むラピダスの地政学的優位 日の丸半導体、「いまさら無理」でもない理由

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また、慶応義塾大学では、腸内環境を量子コンピューティングによって解明しようとする研究が始まっている。人間の免疫は7〜8割が腸で決まるといわれており、潰瘍性大腸炎やクローン病などは、腸内細菌(腸内フローラ)のバランスが大きく影響することがわかっている。そこで、健康な人の便から抽出した腸内細菌を移植することで、患者の腸内環境を改善しようという試みが実用化している。

ただ、100兆個ともいわれる腸内細菌のうち、どれがどのように効いているのか、あまりにも複雑すぎてまだ解析しきれていない。現在は「これかもしれない」と思われる7〜10種類の腸内細菌を集め、カクテルにして摂取する試みが臨床試験段階にある。量子コンピュータで超高速計算すれば、その人それぞれに合った腸内細菌の種類がきわめて正確に特定できるかもしれない。

がんの分野でも、量子コンピュータの活躍が期待されている。現在の抗がん剤は、がん細胞が複製されていく過程で、ある部分に強制的に「くさび」を打ち込んで攻撃し、複製を止める。ただ同時に、ある確率で良性の細胞も攻撃するため、副作用が避けられない。しかし、量子コンピュータでの解析によって、くさびをピンポイントで打ち込むべき標的がわかるようになる。

解明されていない未知の領域にも

東洋医学や免疫といった未知なことが多い分野についても、量子コンピュータがメカニズムを解明できる可能性がある。たとえば鍼治療は、自律神経を刺激しながら、人間の中に眠っている自然治癒力を呼び覚ますといわれているが、詳しいことはまだはっきりわかっていない。

免疫も同じで、オランダでは子どもが2歳になると牧場で遊ばせることで、アレルギーや喘息になりにくいといわれている。おそらく家畜や土、植物、あるいは微生物などによって免疫を獲得させているのだろう。とはいえ、そのメカニズムはやはり明らかになっていない。

ほかにも、量子コンピュータによって解決に向かう分野は、数かぎりない。ラピダスが2ナノの製造をめざすのは、こうした未来の世界を切り拓くためなのだ。

小柴 満信 JSR前会長、経済同友会経済安全保障委員会委員長

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こしば みつのぶ / Mitsunobu Koshiba

1981年日本合成ゴム(現JSR)入社。1990年半導体材料事業拠点設立のため米シリコンバレーに赴任。モトローラ、IBM、インテル等との関係を構築。2009年社長、2019年会長、2021~2023年名誉会長。2019~2023年経済同友会副代表幹事として、国際関係・先端技術・経済安全保障を担当。2020年にCdots(シンクタンク)を設立し、先端技術、地政学、地経学に関する意見発信を行う。国内外のスタートアップ(TBM、Spiber、クオンティニュアム、Fortaegis等)を支援中。2023年Rapidus社外取締役に就任。

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