屋敷で起きたことは伝えなかったが、最後の立ち会いの際に依頼人がこう聞いてきた。
「作業中に何か起きませんでしたか」
二見氏が思わず「霊的なことですか?」と聞くと、依頼主は頷いたという。
見積もりの際には、心霊現象があるという話は一切出なかった。前持って話してしまうと、片付けを断られるのではと懸念したのだろうか。
そして依頼人には、屋敷を手放す前にどうしてもしておかなければならないことがあるという。
「屋敷のそばの林道を上ったところにいる首無地蔵さんにお参りをしないと帰れません。一緒に来てもらえないでしょうか」(依頼主)
過去を振り返ってみても、その林道がもっとも怖かったと二見氏は言う。
突然現れた少年
二見氏の記憶を頼りに、筆者も現地を訪れた。イーブイが片付けた屋敷は今でも空き家になっているようで、門の向こう側には埃をかぶった狸の置物が鎮座していた。屋敷の向かいにある民家の裏口には芝刈り機が置いてある。
林道も屋敷のすぐそばにあった。入り口には石碑が2つ。脇には地蔵も祀られている。
林道に足を踏み入れてみたが、二見氏の話を聞いてしまったせいか、とてもじゃないが一人では前に進めない。近隣住民の姿も一切なく、まるで廃村のようである。
10分ほど立ち往生していると、体操着を着た少年がガサガサと音を立てながら林道を上ってきた。歳を聞くとまだ小学5年生だという。ここにはよく来るのだろうか。それなら首無地蔵のことも知っているかもしれない。
「来たことないですよ。歩いていたら道を見つけたので入ってみました」
少年と一緒に上った林道の先には、寺があった。横には墓地が広がっている。そして、敷地内には地蔵が14体。どれが依頼主の言う首無地蔵なのかはわからなかったが、顎が欠けている地蔵や、顔面が削り取られた「のっぺらぼう」のような地蔵がいた。
先に下山したのだろうか。気づくと、少年の姿はなくなっていた。
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