「猫は犬ほど人と絆を結べない」わけではなかった 「猫に対する見方が変わりつつある」と研究者
年齢によるちがいは見られませんでした。品種も色々な猫を対象にしました。家庭で育った猫、猫保護施設あるいはケージで育った猫では差があるかどうかも調べましたが、社交能力は基本的に同じでした。
長年犬や猫の研究に使われてきたのが、幼い子供の検診でも使われる指差しテストです。異なる色のついた缶を指差した時に、子供がそれを目で追って歩み寄るなら、相手と交流する能力があるということになります。
1998年に犬が簡単な指差しテストに合格することが判明して以来、世界のペット研究所が犬の行動を詳しく調べ始めました。
犬は人間の顔を見て感情を理解する、会話を部分的に理解する、公正で倫理的に行動するーーそんな研究結果の積み重ねで、「犬は人間の忠実な友」というイメージができあがりました。
一方の猫はすっかりおいてきぼりでした。たとえば2004年には犬の認知能力に関する大規模な研究が12件も行われているのに、猫に関しては1件もなかったのです。この研究投資の割合は猫の人気に見合っていません。
2019年には研究者アーダーム・ミクローシ氏が『サイエンス』誌のインタビューで「私たちは猫よりもオオカミのことをよくわかっている」と言ったほどです。
ミクローシ氏は2005年には猫に指差しテストを試みました。すると最初は犬と同じような行動を見せましたが、しばらくすると猫たちは次々とテストから脱落し、研究者を困らせました。
テストに飽きてしまったり、立ち去ってしまったり。猫の研究は行き詰まりました。犬と同じように行動しないので、研究者のほうが耐えられなかったのです。ミクローシ氏は「二度と猫の研究はしない」と誓ったほど。
「みんな挑戦したけど、諦めたんです」ーー10年後に『ニューヨーク・タイムズ』紙のインタビューでそう苦笑しました。
猫にも社交性があることが明らかに
何が原因なのかを別の研究者、つまりヴィターレ博士が掘り下げるまでに、それから10年かかりました。
ヴィターレ博士のチームは2017年に本格的に研究を開始しましたが、驚いたことに猫たちは犬と同じように立派に指差しテストに合格し、多くの場合、指を差されたものに向かって喜んで歩いていきました。ゆっくりとはいえ確実に、謎が解明されていったのです。