《プロに聞く!人事労務Q&A》ボランティア休暇規程を作成する際にはどんなことに注意すればいいですか?

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《プロに聞く!人事労務Q&A》ボランティア休暇規程を作成する際にはどんなことに注意すればいいですか?

質問

東日本大震災の発生以来、ボランティア活動への関心が高まっているようです。社内ではボランティア休暇の制度を作って社会貢献するべきだとの声が強くなっています。ボランティア休暇規程を作成する際にはどんなことに注意すればいいでしょうか?多くの従業員に休まれてしまうと困るので、社業にあまり影響のない規程にしたいと思います。(専門商社:人事担当)

回答
回答者:雇用システム研究所 白石多賀子

ご質問の通り、今回の東日本大震災を契機に、企業側も従業員の「社会貢献をしたい熱い思い」を支援しようと「ボランティア休暇」の導入が増えています。日本でのボランティア活動の始まりは、平成元年のロマ・プリータ地震(アメリカカリフォルニア州、サンフランシスコ郊外)でNGOの支援を得た大学生中心の活動といわれています。 

平成7年の阪神・淡路大震災では、全国から延べ150万人のボランティアが被災地に集まり、復旧・復興に協力し「ボランティア元年」というほど関心が高まり、その後、発生する地震・水害等で被災地域へボランティアが積極的に参加しています。

■ボランティア休暇規程のポイント
ボランティア休暇制度は、労働基準法で定められている年次有給休暇とは異なりますので、各企業のボランティア休暇制度導入に対する会社方針等を規程で明確にすることができます。 

ご質問の社業に影響が出ない導入のためには、次の項目を社内で検討してください。

(1)対象にする活動範囲
ボランティアは、被災地・被災者への救護活動をはじめ、心身障害者、高齢者の介護や世話など広範囲の活動となり、国内のみならず海外への参加もあります。一般的には、活動範囲を限定している会社が多く、活動対象、休暇(休職)事由について定めておく必要があります。

(2)対象者および選考
従業員のボランティア活動を支援する制度ですが、入社したての従業員や休職・休業から復帰して間もない従業員を対象外とする等、対象者を限定することもできます。例えば、勤続1年以上の従業員を対象とし、制度利用の条件として休暇中の活動報告書の提出や職場復帰を定めることもできます。社業に影響がないよう、対象者の選考や期間を指定して承認することも検討して下さい。

(3)休暇日数(休職期間)
休暇は1週間から1カ月程度、休職は1カ月から1年程度です。休職制度を導入する場合は、休職期間を勤続年数に算入するかどうかを検討してください。特に退職金制度がある場合は、退職金規程に算入の有無を明記しないと休職期間も勤続年数に加算され、退職金の支給対象期間となります。

(4)休暇(休職)中の賃金の取扱
労働基準法のノーワーク・ノーペイの原則により、無給扱いでも問題はありません。しかし、従業員のボランティア精神を尊重し、一定日数までは有給扱い、または給与の一部を支給する、賃金は支給しないがボランティア支援金を恩恵的に支給する方法もあります。

(5)取得回数
取得できる回数を制限するときは、その回数を明記してください。

(6)申請手続き
休暇中の代替要因の確保と業務の引き継ぎ等の検討も必要です。その後の業務に支障をきたさぬよう、余裕を持った申請をさせてください。また、会社が申請書提出後に選考を行う場合があればそれらの日数も計算し、提出期限を決めて下さい。

(7)復職後の取扱    
休職期間が満了して復職するときは、原則として前職への復帰になります。しかし、休職期間が長期の場合などでは、社内状況が変化していることも考えられます。会社で組織変更や業務都合による配置転換が必要となる場合もありますので、異動もあることを明記する必要があります。

■ボランティア活動には危険がともなう

被災地において、がれきや泥の撤去は、怪我を伴う危険な作業です。また、被災直後の被災地では二次災害の発生の恐れもあります。

会社が被災し、従業員が施設の復旧作業を行う場合は、労働者災害補償保険(労災保険)の適用となり、作業中の負傷等による療養費や休業補償は給付を受けられます。
また、東日本大震災による被災地における災害復旧を目的であると認められる事業に限り労災保険が適用されます(基労発0411第1号 平成23年4月11日)。

しかし、ボランティア休暇を利用して被災地で活動する場合は、個人的な意思での参加となりますので、労災保険の適用は受けられません。

ボランティア活動者には「ボランティア保険制度」がありますが、対象者や給付内容の周知が徹底されておらず、加入義務もないため、加入漏れが多いのが現状です。
万が一の事故に備えるためにも、ボランティア保険加入を休暇申請の条件にすることも可能です。

従業員の「社会貢献」への思いを大切にして、会社もできる限り支援できる制度を構築してください。
(参考:労務行政研究所「人事規程実務全集」)


 

白石多賀子(しらいし・たかこ)
東京都社会保険労務士会所属。1985年に雇用システム研究所を設立。企業の労務管理、人事制度設計のコンサルティングを行う一方で、社員・パートの雇用管理に関する講演も行っている。東京地方労働審議会臨時委員、仕事と生活の調和推進会議委員。著書に『パート・高齢者・非正社員の処遇のしくみ』(共著)。


(東洋経済HRオンライン編集部)

 

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