松下、YKK、大震災 街の電器屋は逆境で育つ--ケーズホールディングス会長 加藤修一《下》
加藤はもどかしかった。現場はどうなっているのか、この目で見ないと気が済まない。震災から10日後、ガソリン不足が解消されるや否や、東北へ向かった。乗用車に救援物資を詰め込み、福島、宮城、岩手の店舗を10回に分けてすべて見て回った。
後日談もある。震災直後、ある店舗には懐中電灯や乾電池を買い求める客が押し寄せた。だが店員も、被災した家族や家が心配でたまらない。思わず店頭に商品を陳列したまま放ったらかし、帰宅してしまった。極限状態での行動だった。
本社の役員会で、この社員の降格が議題に上がった。話し合いの結果は、おとがめなし。加藤に言わせると「何かあったときに本社に判断を聞いてくるようになってはダメ。電話が通じないので何もできなかった、と報告されることが最悪。今回の人事評価は非常に大事だった」。
長年かけて築いたケーズ流がブレることは、何としても避ける必要があった。加藤は65歳を迎えた今年、29年間勤めた社長の座を譲ることを決めていた。会長兼CEO(最高経営責任者)に就き、社長には営業本部長で専務の遠藤を指名。遠藤について「ケーズ流を最も理解している一人」と評価する。
遠藤は入社して26年来、加藤にしかられた記憶がないし、しかる姿も見たことがない。「お店には親切がたくさんある」と示されるくらいで、仙人と話しているようだった。「加藤語録」を手帳に書きとめ、店にどう落とし込むかを考えてきた。
加藤の高校時代の同級生で、15年来の友人であるアパレル企業ポイントの福田三千男会長兼社長は、「彼はじっと時を待つ経営ができたと思う」と評価する。
一見、守りに見えるが攻めの経営。安定成長を貫きながら、ヤマダに白旗を上げた家電店を買収して規模を拡大してきた。社長交代について福田は「創業者として社長業をやってきたから、会長になっても大きく変わらないと思う」。