「データ重視」の仕事に潜むこれだけのワナ 「デザイン的思考」を岩佐十良氏に聞く

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「多くの人が、データは万能かつ客観的なものと勘違いしています」

岩佐:多くの人が、データは万能かつ客観的なものと勘違いしています。そうじゃないんです。データは統計をとる時点から、誰かの個人的価値観が介在しています。そこにデータを作成する人間の意図がないにしても、設問の一字一句にだって必ず差がでるでしょう。世の中の大きな流れを知るには役立つかもしれませんが、データを活用しても、人を感動させるようなアイデアは生まれないでしょうね。

常見:私、データは大事だと思うのですよ。ただ、そのデータの使い方も実は雑なんじゃないかと思うわけです。書籍などに関していうと、ちょっと初動が悪いだけで返本するなよ、と。あ、今のは完全に私の愚痴です(笑)。ところで、岩佐さんは何を頼りに企画を考えてこられたのですか?

岩佐:僕が大事にしているのは“現場から得られる経験”ですね。そこにヒントがあるのです。

常見:この本にある『自遊人』の寿司屋特集のエピソードが面白かったです。普通の雑誌の編集部はたいてい、まず、今の寿司屋の人気店やトレンドをリサーチします。『自遊人』編集部ではそのような下調べをいっさいせず、いきなり寿司屋に行くと。そして、寿司屋のお客さんを観察しながら、「今、消費者はどのような寿司を好んでいるのか」を考える、と。

岩佐:もちろんお客さんの好みは多種多様です。しかし、そういった多種多様な好みを現場から知り、どんなニーズがあるか肌感覚で覚え考えることで、それをアウトプットをするときに生きてくるわけです。

2匹目のドジョウは、意味がない

常見:言ってみれば、手間のかかる面倒くさい作業ですが、現場で得られる肌感覚をおろそかにしてはいけないということですね。

岩佐:そういうことです。今、世の中でこれだけデータや情報があふれている時代はありません。でも、それを過信せず自分から体験してみることに価値があると僕は思っています。僕たちは日々、芸術やおいしい料理、キレイな風景といろんなことに心動かされるじゃないですか。でもそれは、決してデータ化できるものじゃない。実体験でしか得られない情報なんです。

常見:感情に訴える企画を作るためには、自身がその感動の源泉となるものを体験しなければいけないわけですね。

岩佐:しかも、感動体験はそう簡単に消えません。だから、そういった体験のストックが多ければ多いほど、長く支持される企画が生まれるのですね。

常見:その「長く支持される」というところが、今回のキーワードだと思いました。最近はどんな企画や商品も短期的な利益ばかりを追求しているように見えます。もちろん、そうせざるを得ない世の中なのですが。昨年末、フランスの経済学者ピケティの本『21世紀の資本』(みすず書房)が話題になりました。それから雨後のたけのこのように、関連本が何冊も発売されたんですね。

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