「今回依頼をしてくださった息子さんは、『自分たちみたいな人間が依頼をしていいのか』と躊躇があったようです」
そう当時を振り返るのはイーブイ代表の二見文直氏だ。
息子はイーブイに依頼をするにあたって、過去に配信された動画を数本見たという。そこに映し出されていたのはゴミ屋敷の住人たちが置かれたどうにもできない状況だった。
精神的な病、高齢による身体の痛み、シングルマザーなどなど……。それに比べて自分の父は入院をするまでは健康である。息子から見る限り特別な事情があるわけではない。
「ただ、だらしないというだけで依頼をするのは申し訳ない」
息子はイーブイにそう吐露したという。脱いだら脱ぎっぱなし、使ったら使いっぱなし。昔からそんな父親の姿を見てきた。
「同じように『依頼するのが申し訳なかった』と、私たちに頼るまでに時間がかかってしまう人はほかにもいます。その多くは、『お金を払うとはいえ、こんなに汚い部屋を片付けてもらうのは……』という後ろめたさから来るものです。
でも、現場に行ってみると通常のゴミ屋敷となんら変わりはありません。必要以上に自己否定をしてしまっているように思います」(文直氏)
部屋から出てきた生命保険の冊子
月130軒以上のゴミ屋敷清掃をこなすイーブイに片付けられない部屋はまずない。強いていえば、料金の未払いが続く住人くらいだ。部屋の状態によって片付けを断ったことは一度もない。
「ただ、だらしないだけじゃなくて、僕はなにかあったんだと思いますけどね」
リビングの黒ずんだ机を片付けながら信定氏はそう言った。
現場に入ったスタッフは5人。作業は約3時間半で完了した。終了間際、和室から生命保険の冊子と『おひとりさまの老後』(上野千鶴子著、法研)という本が出てきた。父親はすぐ目の前までやってきていた“ひとりの老後”を意識していたのだろう。
子どもたちの知らないところで、長い間ひとりきりで孤独に苛まれていたのかもしれない。
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