海上自衛隊の潜水艦メーカーは2社も必要あるか 川重の裏金問題で注目される潜水艦の実態

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かつて海自の掃海能力は世界一と自画自賛していた。ところが湾岸戦争後ペルシャ湾で掃海任務に派遣されたときに、他国の掃海艇が高度自動化され、船体もFRPが主流であった。対して海自掃海艇の装備は旧式で人力に頼ることが多く、船体は木製だった。これに慌てて海自は他国から掃海装備を導入し、船体もFRPに変更した。このように海自の自画自賛は得てしていわゆる「大本営発表」であることが多い。

潜水艦にしてもソナーなどのシステムは貧弱である。例えばイージス艦が搭載している米国製ソナーで探知できる潜水艦が汎用護衛艦の搭載する日本製ソナーでは探知できない。ソナーメーカーは我が国ではNECと沖電気の2社が存在しているが、競合することなくそれぞれアクティブソナーと、パッシブソナーで棲み分けをしている。当然輸出はしていない。本来これも事業統合が求められる。同じ分野で開発費なども按分しており、効率が悪い。両社とも音響工学の博士号をもった社員もいないという。

デバイスに関して日本製は問題ないが、ソフトの面では欧米に大きく遅れている。以前オーストラリアに日本製潜水艦を売り込んだが失敗に終わった。その原因の1つがソナーなどを含めるシステムの低性能にあると言われている。

またソノブイにしても米国製の何倍も高価なのに性能は低い。このためリムパックなどでは米国製ソノブイを使ってきたという。国産ソノブイの性能が低いので、海自哨戒ヘリ用にソノブイを調達しているがあまり使用されていない。本来哨戒ヘリはソノブイを投下して、敵潜水艦の位置をある程度掴んだ上で、機体から下ろすデッピングソナーを使用するが、海自の哨戒ヘリはほとんどデッピングソナーしか使用しないという。

今年海自哨戒ヘリ同士が夜間に衝突して8人が亡くなるという痛ましい事故が起こった。防衛省の事故調査報告書ではその指摘はない。報告書では指示を出していた指揮官が2機のヘリが同一の目標を捜索していることを互いに伝えていなかった上に、2機に安全な高度差を取るよう明確に指示していなかった、というがデッピングソナーをしていれば同じ高度を取るしかない。この点がなぜ指摘されていないのか。もしデッピングソナー偏重運用の問題が背景にあったのだとすれば、あの事故は「人災」とも言えるかもしれない。

輸出市場で顧客からの評価もなく、小さな防衛省市場をわけあっているので人員や開発費も増やせまい。売り上げが少なく、計画当初は必要ないとされていた「いずも」級にNEC製バウソナーを搭載している。このため余分なソナー要員が乗員に必要となり数年に一回ゴム製の外皮を取り換えて莫大な維持費がかかる。

中古潜水艦の輸出は有効活用の1つの方法

税金の有効活用という面では中古潜水艦の輸出も行うべきだ。世界最大級の通常動力潜水艦の中古を売るのは大変難しい。フィリピンなどでは手に余るだろう。だが比較的早く退役させるのであれば中古の輸出は1つの方法だ。潜水艦は高張力鋼の塊なので解体するにも莫大なコストがかかる。であれば安くとも輸出をしたほうがいい。また輸出を通じてその維持や運用に関してはメーカーの仕事が増えるし、指導などでは海自のOBの再就職にもなるだろう。

また輸出用の比較的小型の潜水艦の開発も行うべきだろう。その際コンポーネントなどは国際競争力の高い、外国製を積極的に導入すべきだ。それによって外貨を稼ぎ、雇用を増やす努力を行い、売り上げが増大すれば自社の開発費用も増やすことができるはずだ。また自国の潜水艦の技術水準を客観的に把握することにもなる。また自衛隊以外のユーザーの厳しい意見も性能や品質の改善につながるだろう。

数年前に6兆円もなかった防衛費が現在は8兆円弱まで増えている。そのうち約5000億円は建設国債という借金である。日本は国と地方合わせればGDPの2倍以上の借金を抱えており、いつまでも「借金軍拡」を続ける国力はない。同時に人的な余裕もない。そうであれば早急に費用対効果の高い潜水艦運用と、国産潜水艦技術の維持のために抜本的に政策と運用を見直す必要がある。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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