気づくと健之さんが雄弁になっている。プロのお見合いのシステムは「使い倒した」自覚があり、自信を持って語れるのだという。健之さん、面白い人だ。妻となった奈緒子さん(仮名、32歳)も、彼の独特のユーモアを察知したのだと思う。「フィーリング」はお互いに最初から良かったようだ。
「彼女とは何度会っても疲れませんでした。私は1か0かのどちらかです。会ってみてダメだと感じた人とは二度と会いません。お見合いもそこで終わりにして付き合い始めました。私は話すより聞くほうが好きなので、よくしゃべってくれる妻といるのは楽です」
お見合いおばさんへの恩を忘れない
結婚して1カ月余り。とにかく食べることが好きだという健之さんのために、菜緒子さんは料理教室に通っている。
「妻の料理はおいしいですよ。私は20年以上、外食だけの生活をしてきました。手料理ならはっきり言って何でもおいしいです」
卑下もしないけれどのろけることもしない健之さん。今夜のような外食も「事前に妻に話せば問題ありません」と淡々としている。とっつきは悪いけれど、実は付き合いやすい人物なのだ。
例のお見合いおばさんは、こんな健之さんをよほど気に入ったのか、現在に至るまで1円も料金を要求してこないという。入会以来、すべて無料で100人もの女性を紹介してくれたのだ。
「(お見合いおばさんが)本業ではない方なので余裕があるのかもしれません。でも、さんざんお世話になった挙句にお礼をしないわけにはいきません。明日、30万円を包んでご報告に伺う予定です」
お寺のお布施のようなやりとりである。筆者は東京から愛知に引っ越して3年になるので、健之さんとおばさんの感覚が少しわかる。お互いに県内で長く生活しており、今後も出張や旅行以外で県外に出るつもりはない。このような人たちは、プロアマを問わず、どこかで再会する確率が高い。東京のように「大都会の恥はかき捨て」というわけにはいかない。不義理を繰り返すといずれ行き詰まり、愚直に誠意を尽くすと長生きできる。そういう世界なのだ。
健之さんには華がない。しかし、実は十分にある。菜緒子さんはその豊かな香りを感じ取り、夫婦になることを決めたのかもしれない。2人は県内にしっかりと根を下ろし、多くの人に助けてもらえる幸せな家庭を築くことだろう。
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