「安定コースを行くべきか夢を追うべきか、現場で職人的に働くのか会社全体を見渡せるコーディネーター型になるのか。30歳を過ぎてもブレていました。常に『自分にはもうちょっと何かできるんじゃないか』という夢見がちな気持ちがあったのです。あ、こんな話は取材の趣旨と違いますか?」
健之さんは不器用な男性なのかもしれない。かといって、冗談がわからない人でもないようだ。親しくなるにつれて味が出てくるタイプなのだろう。同い年であることを思い出し、筆者は急にリラックスした気分になった。あれこれ聞いてみたい。ずっと彼女がいなかったという健之さん、独身時代の休日はどのように過ごしていたのか。
「読書か筋トレです。最近は言語学や人工知能に興味があります。専門書を読むことが多いのですが、どこかで会社の仕事を意識しています。良書を読むと仕事の見方を変えることができますね。筋トレといってもひとり暮らしの自宅で腕立て伏せをするぐらいです。ひとりでいることには慣れてしまいました」
南米の工場で突然「結婚しなければ」
ストイックな健之さんに転機が訪れたのは3年前。会社から南米の工場に3カ月間の出張を命じられた。地平線が見える広大なサトウキビ畑に囲まれた立地で、社内には日本人が5名だけ。昼休み後に正門前に集まって一緒にタバコを吸うのが唯一の楽しみだった。
「ちなみに私はタバコを吸いません。さすがに寂しかったですね。オレはここで何をやっているんだろう、と思いました。今までいろいろとひとりで努力してきたので、そろそろひとりではできないことをやりたいと思い、結婚する気になりました」
20代の頃からときどき合コンなどに参加していたが、「出会いの場として自分には合わない」と感じていた。確かに、トークの瞬発力を問われる合コンの場で健之さんが輝けるとは思えない。好みの女性がいたとしても、積極的にアプローチしたり、まめに連絡をとることもないだろう。
こんな健之さんにも武器がある。不器用だけど誠実で愛嬌もある人柄のため、親身になってくれる友人知人が少なくないことだ。60代の知人女性と飲んでいた際、その息子がプロのお見合いおばさんの紹介で結婚相手を見つけた話になり、「君もどう? お見合いおばさんを紹介しようか」と誘われた。健之さんは「お願いします」と頭を下げた。これが「100人切り」のお見合いの始まりなのだろうか。
「話が大げさに伝わっていますね。100人とお会いして断ったわけではなく、メールで送られてきた写真とプロフィールを見てお断りしただけです。その数が100人ぐらいだったと思います。私の写真とプロフィールも女性たちが見ているはずなので、同じぐらい割合で断られているかもしれません。実際にお会いしたのは20人ぐらいです」
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