「ブラック・スワン」の根本原理とは「指数関数」 トランプが真剣に受け止めなかった「小論文」

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「アウトブレイクは避けられない。しかし適切な予防的対応をすれば、世界全体へのシステミック・リスクは緩和できる」と小論は述べた。

2020年初めの時点で高度に予防的な対応を取るという考え方は、公衆衛生の専門家や政治家からはほとんど出なかった。その多くはアウトブレイクが引き起こす大量死の可能性よりも、積極的な対策を取ることによる経済への影響を心配していた。「予防原則の重要性についてしつこく、ほぼ孤立無援で訴えてきたのがタレブであったことは、西洋の社会全般の医療と公衆衛生と指導者のまったく嘆かわしい現状を物語っている」。イブ・スミスのペンネームで執筆するスーザン・ウェバーは、人気の金融サイト「ネイキッド・キャピタリズム」で当時そう書いた。

静観派は誤解している

ホワイトハウスがタレブの警告を受けて行動したのかどうかはわからない。アメリカが中国からの入国制限を決断した際に考慮されたかもしれないとタレブは考えている。この措置は彼が国家安全保障会議の知人に小論を送った数日後に取られた。

にもかかわらず、それからほどなくしてトランプはウイルスが「奇跡のように」消滅するだろうと予言した。ホワイトハウスの他の高官も、小論が推奨したのとはまったく異なる対応策を表明していた。

トランプ政権の考えでは、この病気の性質――感染力と致死性―─はまだ不確定なのだから、経済(とトランプの再選の可能性)に打撃を与えかねない思い切った手段を取る前に、もっとデータを集めてリスクを理解するのが最善の策だった。まだ十分にわかっていないのだから、というのが政権の理屈だった。もっと情報が必要だ。角を矯めて牛を殺すようなまねはできない。アメリカ大統領の周りにいたのはこういう人々だった。イギリスなど他の国々も、静観する姿勢を取った。

ブラック・スワンと世界的なシステミック・リスク、そしてパンデミックに関して、静観派はまったく誤解している、と後にタレブは言った。「わからなければ、何をすべきかはなおのことはっきりする」と彼は私に語った。「操縦士の腕がよくわからなければ、飛行機に乗ってはいけない」。

(訳:月谷真紀)

スコット・パタースン 『ウォール・ストリート・ジャーナル』記者

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Scott Patterson

『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の記者として20年以上のキャリアを持つ。初の著書である『ザ・クオンツ――世界経済を破壊した天才たち』(角川書店)は、数学的アプローチを用いたトレーダーの台頭が金融システムを崩壊寸前にまで追い込んだ過程を描き、2010年の『ニューヨーク・タイムズ』紙のベストセラーとなった。2作目となる『ウォール街のアルゴリズム戦争』(日経BP社)では、超高速取引がいかに株式市場を不正に操作していたかを暴き、金融ライターたちから絶賛された。2011年にLoeb Breaking News Awardを受賞。CNBC、The Daily Show、Fresh Airなどのメディアにも多数出演。妻と息子とともバージニア州アレクサンドリアに在住。

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