「ブラック・スワン」の根本原理とは「指数関数」 トランプが真剣に受け止めなかった「小論文」
「世界の接続性はかつてなく高まっており、その中でも中国は世界とのつながりが最も強い社会の1つである」と「システミック・リスク」小論は解説した。「基本的に、ウイルス感染という事象は物理空間でエージェント同士が接触することによって起こる」。
失敗は許されなかった。人類にとってのリスクは統計学─およびギャンブルを知的に研究している界隈で破産問題として知られるものだった。
つまり、人類という種の絶滅リスクだ。仮に所持金1000ドルのギャンブラーが、負けるたびに賭け金を倍増させていくと考えてほしい。5ドル負ければ10ドル賭ける。10ドル負ければ20ドル賭ける。マーチンゲールと呼ばれるこの戦略は、必ずギャンブラーを破産させる。一文無しになること確実な戦略なのだ(ギャンブラーに無限の資産があるのでない限り)。
パンデミックは非線形的な性質を持つがゆえに、ウイルスの致死性と感染力、拡散の速さによっては人類に同じ脅威を与えうる。2020年1月の時点ではこれらは誰にとっても未知だった。
「これは破産問題である」とシステミック・リスク小論は書いていた。「つまり、テール事象への露出は、時間の経過とともにやがて確実に絶滅につながる。1件のこのような事象を人類が生き延びる確率は非常に高いが、時間の経過につれ、このような事象に繰り返しさらされれば、生き残りの確率はやがてゼロになる。寿命の限られた個人が繰り返しリスクを取ることはできても、システミックで集団的なレベルで破産のリスクに身をさらすことは絶対にしてはいけない」
予防原則
歴史上のパンデミック─―腺ペストや1918年のスペイン風邪など─―が発生したときの世界は今とは違っていた。ユナイテッド航空やルフトハンザドイツ航空が飛び交う国際航空路線網も、数千万人が暮らす人口過密な都市も存在しなかった。今日の超ネットワーク化されたグローバル社会は、破産問題という極端なリスクの脅威をかつてなく高めているのだ。
しかしタレブと共著者らによれば、もし人類が今回の新型コロナウイルスのパンデミックに学ぶならば、希望が失われたわけではない。今後起きるアウトブレイクには、脅威の大きさに見合った対応が求められる。全世界が絶体絶命の覚悟で行動しなくてはならない。それはすなわち、「予防原則」を適用するということだ。その適用条件は、小論の言葉に従えば、「破滅のリスクを下げるための措置を取るべきであり、従来の費用便益分析を用いてはならない」。
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