「ブラック・スワン」の根本原理とは「指数関数」 トランプが真剣に受け止めなかった「小論文」
パーシング・スクエアのビル・アックマンと同じように、タレブも大半の人が指数関数の恐るべき意味を理解していないことを知っていた。
IBMの重役ジョン・E・ケリーは『ニューヨーク・タイムズ』のコラムニスト、トーマス・フリードマンに指数関数に対する人間のいかにも人間らしい関わり方について的確に述べている。そのときの会話をフリードマンは2016年刊行の著書『遅刻してくれて、ありがとう――常識が通じない時代の生き方』(伏見威蕃訳、日本経済新聞出版、2018年)で再現している。
「私たち人類は直線的に変化する世界に生きています。距離、時間、速度が直線的に変化する世界です」とケリーはフリードマンに語った。しかし、現在のテクノロジーの発展は、「幾何級数的な曲線を描いています。私たちがこれまで実感した幾何級数的な経験は、たとえば自動車が急加速したり急ブレーキをかけたりするときの加速や減速くらいです。そういうとき、人間は一瞬、大きな不安をおぼえたり居心地悪く感じたりします。(中略)多くの人々のあいだに、つねにこういう加速状態に置かれているという感覚が生まれています」。
タレブの根本原理
日進月歩の新しいテクノロジーは現代の生活に浸透している。マーク・ザッカーバーグは2004年にフェイスブックを創業した。iPhoneの誕生は2007年だ。テスラが初の100%電気自動車のロードスターを製造したのは2008年だった。新型コロナから身を守るmRNAワクチンは、ほとんどの人の理解を超えた現代の科学技術の驚異だ。私たちが暮らす世界は指数関数的に変化するようになっているが、私たちの脳は直線的な変化にしかついていけない。
指数関数の研究がまさにタレブの日々の仕事──彼のブラック・スワン的世界観の数学的な根本原理だった。もちろん、パンデミック自体は新しいものではない。パンデミックは人類の文明と同じくらい歴史が古い。
だが新型ウイルスはブラック・スワン的な、すなわち知られざる未知の性質を持っている可能性がある。新型ウイルスが初めて世界で大流行した時点では、それが人体にどう作用するのか、治療法、感染力、人々が感染に気づかないまま致死率の高いウイルスを拡散する可能性、指導者たちがアウトブレイクにどう対応するか、は誰にもわからない。タレブは今回の新型コロナウイルスがこのような未知の性質を持っているかもしれないと恐れた。
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