「ブラック・スワン」の根本原理とは「指数関数」 トランプが真剣に受け止めなかった「小論文」

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タレブとバーヤムとNECSIのもう1人の研究員ジョー・ノーマンは、ただちにウイルスの存亡リスクと必要な対応策の概略を述べた小論を作成した。そしてタレブがその小論をホワイトハウスに送った。何日か後の1月26日、ほとんどのアメリカ人が伝染病の襲来に気づいていなかった時期に、タレブらは小論を公開した。

「新規の病原体を介したパンデミックのシステミック・リスク─コロナウイルス小論(Systemic Risk of Pandemic via Novel Pathogens—Coronavirus: A Note)」はたった1ページではあるが、病気の蔓延を食い止めるために迅速かつ徹底した措置を求める特大級の警鐘だった。ソーシャルディスタンス。検疫。国境閉鎖。ウイルスの拡散はほとんどの人が理解しているよりもはるかに速く進行している可能性がある、と論文は訴えた。

「私たちが相手にしているのが、交通接続性の向上によって非線形的に拡散が進む極端なファットテール・プロセスであるのは明らかだ」と小論は述べた。「ファットテール・プロセスには特殊な性質があり、従来のリスク管理法では不十分である」。

「テール」とは、過去50年間の株式市場の平均的な日々の上げ下げやニューヨークの一日の気温の100年間にわたる変化のような、ある事象の確率を測るベルカーブ(鐘型曲線)の裾部分を指す。標準的な分布曲線は鐘のような形をしており、サンプルのほとんどが真ん中に集まり──プラスマイナスが例えば0.1~5%の間に収まる──、残りの、確率の低い事象が曲線の両端に入る。「ファット」テールとは、正規分布から予想されるよりも裾の事象がはるかに大きいか頻度が高いことをいう。例えば1987年のブラックマンデーがこれに当たる。

非線形的、指数関数的に拡大する

パンデミックは極端なファットテールである。

なぜならパンデミックは非線形的だからだ。統計学では、アウトプットがインプットに比べて不釣り合いに大きい場合に非線形的という。1、2、3、4、5、6と増えていく線形的な現象に対して、非線形的なアウトプットは1、2、4、16、256、65536と指数関数的に増えていく可能性がある。

言い換えれば、非線形的な事象はきわめて速いスピードできわめて大きくなる傾向がある。おそらくは無症状であろう1人の感染者が2人にウイルスを感染させ、その2人が4人に、4人が16人に、16人が256人にウイルスを拡散させていき、やがては数百万人が感染する。

まさに2020年1月にビル・アックマンを恐怖に陥れた動きだ。世界が超ネットワーク化され、ジェット機が往来し、大都市間の交流が盛んな今は、ウイルスの拡散―─R0─―はさらに非線形的、さらに指数関数的になりうる。

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