昭和を冷たく笑う人たちが日本の分断を招く理由 「共通の記憶」なき私たちに未来は描けるのか?

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私は、第1次世界大戦の敗北の歴史を切り離し、アーリア人と非アーリア人とを区別しながら後者を断罪したドイツの過去を思いだす。かの時代の残酷さや暴力性はない。だが、私たちが直面しているのは、「いい人ぶったファシズム」なのではないか。

「昭和かよ!」の向こうにあるのは、新しい社会への意志ではない。自分自身の価値に基づいた定義でもない。古い時代を否定することで、衰退したいまを見えなくする。それは<現状肯定>であると同時に、恵まれた地位にある上の世代への<静かな抵抗>である。

昭和の何を継承し、何を変えていくのか

共通の記憶をなくした私たちは、価値を共有し、未来を構想していけるのだろうか。

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昭和を生きた世代は、この現状を、どのように引き取るのか。事態を傍観し、過去の栄光に酔いしれながら、こっそりとこの世を去っていくのか。

令和を生きるこれからの世代は、この現状を、どのように引き取るのか。他者を断罪し、国民という名の一体感を生みだす手法は、民族主義や排外主義、伝統主義だけではない。

「昭和かよ!」に感じる不快さを私は大事にしたい。そして、その言葉が人びとの心を捉える理由を考えること、昭和の何を継承し、何を変えていくのかを議論することにつなげていきたい。歴史に学ばず、過去を切り捨てる国民に未来はないのだから。

井手 英策 慶應義塾大学経済学部教授

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いで えいさく / Eisaku Ide

1972年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。日本銀行金融研究所、東北学院大学、横浜国立大学を経て、現在、慶應義塾大学経済学部教授。専門は財政社会学。総務省、全国知事会、全国市長会、日本医師会、連合総研等の各種委員のほか、小田原市生活保護行政のあり方検討会座長、朝日新聞論壇委員、毎日新聞時論フォーラム委員なども歴任。著書に『幸福の増税論 財政はだれのために』(岩波新書)、『いまこそ税と社会保障の話をしよう!』『18歳からの格差論』(東洋経済新報社)ほか多数。2015年大佛次郎論壇賞、2016年慶應義塾賞を受賞。

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