兄の声に引っ張られるように、妹たちも可愛らしい声を震わせる。なんだか恥ずかしくなり、バスの車内を見渡した。
しかし、バスの乗客たちはその様子を温かい眼差しで見守っている。俺は、3人の歌う歌詞を1つひとつ慎重に耳に留め、記憶に刻み込みながら一緒に歌った。
最後のパートが終わると乗客から少しの笑い声と小さな拍手が起きた。車内にほがらかな空気が流れる。
兵役が終わった若いイスラエル人は、こちらに一切の興味を寄せず、寂しそうな表情で、一人窓の外の景色を見つめていた。
ヒマラヤに「80年代アイドル曲」が響く
「今度は、日本の歌を教えてあげるよ」
「えー、教えて教えて」
俺は、少しばかり気恥ずかしい気持ちを抑えつつ、近藤真彦の「
子どもたちは、その歌声に耳を傾け、しばらくの間、
「ジンジラジンにサゲーアクー」
「違う違う」
俺は笑いながら訂正する。
「ジンジラジンに…」
ネパールの「ジャイアン」が俺に強制リサイタルを開かせ、ゲラゲラと笑っていた理由がわかった。
「あの野郎、こうやって微妙な間違いを楽しんでいたんだな」
英語学習のときもそうだったが、まったく異なる言語の音を一発で聞き取るのは難しい。しかし、子どもたちは耳がいいのか、5回くらい歌うとそれなりにはなっている。
「ギンギラギンにサゲーアクー」
その後、3人はしばらくの間、バスの中で「ギンギラギンにさりげなく」を熱唱した。
世界を旅していると、「なぜこんな場所で古い日本の曲を知っているの?」という場面にしばしば出会うことがある。
たとえば、中国で「昴」が歌われていることや、カンボジアで「時の流れに身をまかせ」を耳にするのは、まあ何となく想像がつく。
しかし、マルタ共和国で日本のアニメソングをヘビーメタル風にアレンジしたANIMETALの「宇宙戦艦ヤマト」をシャウトな声で熱唱している奴には、思わず爆笑してしまった。
そして、もし別の旅人が標高4000メートルにあるヒマラヤの奥地で「ギンギラギンにさりげなく」を耳にすることがあったなら、その仕掛け人は間違いなく「俺」である。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら