「どこから来たの?」
今度は、10歳くらいの男の子と5歳くらいの妹弟らしき3人が、6つの透き通った瞳でまっすぐ俺の目を見つめ、話しかけてきた。
異国のおじさんを見つめる無垢の眼差し
子どもたちには一切の警戒心がなく、視線が一度も外れることはない。その瞳の奥に広がる純粋さと無垢さに、どこか居心地の悪さを感じた。
「日本からだよ」
そう答えると、兄妹は顔を見合わせてニコリと笑った。
「日本人に会うのは初めて?」
「うん」
子どもたちは異国の見知らぬおじさんを、ヒマラヤの青空のように、一片の曇りもなく信頼している。その無垢な感情を理解したくて、自分が幼い頃の記憶を辿ろうとしたが、何一つとして思い出せなかった。
俺が感じた居心地の悪さは、「無条件に信じるという行為」が、自分の中ではとうの昔に消え失せてしまったという後ろめたさからくるものだ。突き刺さるような美しい6つの無垢の眼差しが、汚れてしまった自分を浮き彫りにさせる。
「君たちはスピティの子?」
「うん。でもネパール人だよ」
地図を頭に浮かべると、確かにこの辺りは中国との国境近くにあるが、その南にはヒマラヤ山脈の雄、エベレストがあるネパールも隣接している。
ネパールにはチベット仏教が根付いているため、「ラマの聖地」と呼ばれるこの地域に宗教上の理由で移り住んだのかもしれない。
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