ドルの信認はなぜ低下しているのか ジェームス・リカーズ氏著「ドル消滅」を読む

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SDRと金を結びつけた 新しい金本位制を提言

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本書はさまざまな経済問題を取り扱っている。その一つは国際通貨基金の特別引出権(SDR)と金を結びつけた新しい金本位制の提言である。

著者は歴史的に金本位制度を三つに区分する。第1次世界大戦までの「古典的金本位制」、その後の金本位復帰から大恐慌にいたる「金為替本位制」、第2次世界大戦後の米国を中心とする「金ドル本位制」である。そして、古典的金本位制はうまく機能していたと主張する。

金本位制に対する“三つの神話"を指摘し、それぞれを否定する。すなわち通貨供給を満たすだけの十分な金供給は存在しないという神話、金本位制が大恐慌を引き起こしたという神話、金が市場パニックを引き起こしたという神話である。大恐慌は金本位制ゆえに起こったのではなく、中央銀行の政策の失敗によって起こったとし、「金本位制は過去にうまく機能したし、今日も完全に実現可能である」と主張する。

こうした主張の背景には、基軸通貨としてのドルの信認低下がある。ドルの実質実効レートは過去最低水準にまで低下し、各国は準備資産として金の保有を増やす金争奪戦の動きを示している。また世界の外貨準備に占めるドルの比率は低下している。これらはいずれもドルの信認低下を示している。

ではなぜドルの信認低下が起こっているのか。それは米国が過剰にデフレを恐れ、ゼロ金利政策と量的緩和政策というインフレ政策を取っているからである。インフレはドルの価値保蔵機能を損なう。なぜ米国はデフレを恐れるのか。著者は三つの理由を指摘する。デフレは巨額の債務を抱える政府の実質債務負担を増やし、政府債務の対GDP比率を高め、金融システムのシステミック・リスクを高め、税収に影響を与えるからである。その結果、世界のドル離れは避けられなくなっていく。

こうした状況に対して、著者はSDRと金を結びつけた「21世紀の金本位制」を提案する。「新しい金本位制は今日の世界の最も重要な三つの経済問題、すなわちドルの衰退、債務中毒、金の争奪戦に対処するものになる」と言う。その提案は極めて具体的である。賛否は別にして、面白い問題提起である。

ただ本書の本当の面白さは、第二章の米中における「金融戦争」の裏側の分析や第三章の米連邦準備制度理事会の金融政策を批判する「市場の緩やかな死」にある。また第四章で展開される中国経済に対する厳しい評価も傾聴に値する。

金融政策や国際通貨制度の基礎的な知識がないと理解しにくいところもあるが、挑戦してみるだけの価値のある本である。

 目次
  ドル消滅

 
第Ⅰ部 貨幣と地政学

  第一章   市場のシグナル

  第二章
  金融戦争

第Ⅱ部
貨幣と市場

  第三章
  市場の緩やかな死

  第四章
  中国の新興金融閥

  第五章
  新しいドイツ帝国

  第六章
  BELLs、BRICS、その他の新興市場国

第Ⅲ部
貨幣と富

  第七章
  債務と赤字とドル

  第八章
  IMF

  第九章
  貨幣化する金

  第一〇章
  FRB

  第一一章
  金融崩壊

著者
James Rickards(ジェームズ・リカーズ)
資本市場で30年を超える実務経験を持つ投資銀行家、リスク管理の専門家。米国の国防総省や謀報コミュニティ、大手ヘッジファンドなどにグローバル金融について助言しており、国防総省が初めて実施した「金融戦争ゲーム」の推進役も務めた。

 

中岡 望 ジャーナリスト

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なかおか・のぞむ / Nozomu Nakaoka

国際基督教大学卒。東洋経済新報社編集委員、米ハーバード大学客員研究員、東洋英和女学院大学教授などを歴任。専攻は米国政治思想、マクロ経済学。著書に『アメリカ保守革命』。

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