データ資料を駆使し進出の常識を多角検証
グローバル化する日本企業の活動が投げかける諸問題を、詳細なデータにより多角的に検証した本である。それはそのまま「空洞化論」を中心とする既成概念の否定となっている。
たとえば一般的な評価とは異なり、海外展開に積極的な企業が国内雇用を減らしているという主張は事実ではない、と本書は内外の文献の渉猟によってそのエビデンス(科学的根拠)を示している。ということは、きちんとした調査ではもともと実証されていたことを、「世論」がねじ曲げていた、ということである。
本書によると、「産業の空洞化」という用語は1973(昭和48)年版の通商白書において既に登場しているとのことだ。となると、40年以上も前から「空洞化」は続いていることになる。
著者は、海外への直接投資により、1.国内の雇用が失われている、という指摘への批判のほか、2.生産・技術基盤そのものが失われている、3.直接投資は貿易を代替する、といった問題点も「データによって支持されていない」ことを丁寧に実証している。
また、「直接投資を行う企業の成長率は行わない企業よりも2%程度高い」という事実と、その原因に関する議論では、欧米への進出は、そこでの新しい知識や技術の習得によって、親会社の生産性を引き上げるという効果などを指摘している。
同時に、直接投資を通じた生産拠点の分散は、企業の不確実性への対処にも貢献していることや、現地(投資先)で得た利益の日本への還元も拡大していることを明らかにしている。
本書のこうした指摘は、企業活動のグローバル化の必要性と必然性を明らかにしているが、では海外企業の日本への投資(対日直接投資)においてはどうだろう。
日本企業の対内投資は、かねてからほかの先進国に比べて見劣りしているが、その原因の一つとして、本書は、価格のうちコストに上乗せされる利潤の比率が諸外国と比べて低いことを指摘している。それは日本の市場の健全性(競争性)を意味しているが、企業にとっては辛い現実といえよう。
以上のように、著者は主に海外進出する日本企業の活動の持つ意味を、偏見なしに膨大なデータの点検により明らかにしている。ただ、本書は、二次資料によって構成されているため、海外子会社が「利益を生み出す要因」など、聞き取り調査をすれば比較的簡単に明らかになる事柄が、理解が至難なテーマになってしまったりする。研究者としての研究方法の違いであろう。
清田耕造(きよた・こうぞう)
慶応義塾大学産業研究所教授、経済産業研究所リサーチアソシエイト。専門は国際貿易、直接投資。1972年生まれ。慶大経済学部を卒業。博士号(経済学)取得。米ミシガン大学客員准教授、経済協力開発機構コンサルタント、横浜国立大学准教授などを経る。
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