「東大理系卒で金融業界」の僕らが小説を書いた訳 田内学×白川尚史「異色の受賞小説家」対談後編
田内学(以下、田内):すごく興味があるのですが、白川さんはなぜ、小説を書いたのでしょうか。白川さんも情報系の学科の出身ですよね? 僕も電子情報の勉強をしていたのですが、白川さんは学生のころから小説を書いていたのですか?
白川尚史(以下、白川):いや、そのころは全然書いてなくて、書き始めたのは2020年の末頃ですね。
田内:実は、私もその時期に、本を書こうかと考え始めたので、重なりますね、偶然ですが。
白川:今回、田内さんと対談させていただく機会をいただき、ぜひお伺いしたいと思ったことがありまして。その1つが、いろいろなメディアがある中でなぜ、小説を選ばれたのかということです。
金融の世界にいて抱えた「モヤっとした思い」
田内:とっつきにくい経済の話を、多くの人に知ってもらいたいと思ったんです。少し話が遡りますが、2009年、ギリシャの財政危機が発覚したことに端を発したギリシャ危機が起こりました。そのときにテレビでとある経済学者の方が――財務省出身の方なのですが――数年以内に、日本も財政破綻するという話をされていて、耳を疑ったことがあります。
僕は当時外資系の証券会社に勤めていて、日本国債を取引していたのですが、彼の説明は明らかに間違っていて、無駄に不安を煽っていたんです。
それ以来、金融の話というのは、金融以外の世界にいる人たちには伝わりにくいのだという「モヤっとした思い」を抱いたのです。
後に知り合った佐渡島さんという編集者にその話をしたら、「田内さんの知っている金融の話をわかりやすく言語化して本にすればいい。内容が正しいのであれば、安倍さん(注:安倍晋三、当時の総理大臣)にでも伝わりますよ」と言われました。
その話を信じて、1冊目の本(『お金のむこうに人がいる』ダイヤモンド社)はできるかぎりわかりやすくするよう注力して書いたところ、実際に安倍さんの勉強会に呼ばれることになったんです。