カリスマの条件…ファンはなぜスターに興奮? 「オペラ大図鑑」でたどるオペラの壮大な歴史

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過去100年にわたって、スター歌手たちはレコーディング・アーティストとしても有名になっている。ドイツのソプラノ、エリーザベト・シュヴァルツコップ、絶対的ディーヴァのマリア・カラス、イタリアのメゾソプラノ、チェチーリア・バルトリ、アメリカのソプラノ、ルネ・フレミングなどがよく知られているが、どんなにすばらしい録音だとしても、オペラハウスでのライヴ上演のわくわくするような感動を捉えることはできない。

テノール

オペラ大図鑑
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カストラートの衰退以来、有名な男声といえばおもにテノールだ。初期のディーヴォ(この言葉はめったに使われないが)といえば、情熱的でロマンティックな恋人か歴史的な救済者だった。その後現れたのが、ヴァーグナーのヘルデンテノール(直訳すればヒーロー的テノール)で、神話的題材や大編成のオーケストラに向いた力強い声で歌う。1820年代には、イタリアのジョヴァンニ゠バッティスタ・ルビーニが流麗なカストラート的効果のある高音でオペラハウスを驚かせた。1820年代から1830年代にかけてはフランスのテノール歌手アドルフ・ヌリが、とりわけパリ・オペラ座で創唱(初演で歌う)した数知れない役で聴衆を熱狂させ、叫ばせた。

だが、1836年にテノールとして初めてハイCを胸声で出したフランスのジルベール゠ルイ・デュプレの官能的な声こそが、今日まで続くテノール人気の始まりだと言われている。オペラ歌手としてもレコード界のスターとしても崇拝されているのはイタリアのエンリコ・カルーソーで、その輝かしい声はオペラに新たな聴衆をもたらした。デンマークのヴァーグナー歌い、ヘルデンテノールのラウリッツ・メルヒオールは、20世紀前半の演奏と録音で今も伝説的存在だ。

オペラの歴史では珍しいことだが、20世紀末の最大のスターはテノールだった。ルチアーノ・パヴァロッティとプラシド・ドミンゴはオペラ愛好家のあいだに熱狂を巻き起こしただけでなく、ホセ・カレーラスとともに「三大テノール」として、オペラで最も人気の高い曲を歌い一般大衆にまで広めた。彼らはオペラハウスやレコード会社にとって、またファンにとっても非常に重要な存在であり、その後もすばらしい(後継者となりうる)若手テノール歌手が現れて舞台に立つたびに期待が高まる。同じように、将来有望と思われる際立ったソプラノ歌手が現れると高い期待が寄せられる。

確かに、人々から愛される歌手なしにオペラが400年も生き残ってきたとは考えにくい。実際、そうした歌手たちが作曲家を触発し、聴衆に興奮をもたらし、至るところでオペラハウスを満杯にする。また、彼らが人々の心にかき立てる深い情熱こそが、オペラの未来を確かなものにし続けていくのだ。

アラン・ライディング

『ニューヨーク・タイムズ』紙の元ヨーロッパ芸術特派員。長年のオペラ愛好家で、数多くの著書がある。

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加藤 浩子(監修)

オペラ評論、音楽物書き。著書に『ようこそオペラ!』『オペラでわかるヨーロッパ史』『カラー版 音楽で楽しむ名画』『バッハ』『16人16曲でわかるオペラの歴史』等著書多数。

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