カリスマの条件…ファンはなぜスターに興奮? 「オペラ大図鑑」でたどるオペラの壮大な歴史
ロマン派の時代はカストラートに別れを告げたが、新たな声のタイプとそれに伴うディーヴァの到来を歓迎した。ソプラノのアンジェリカ・カタラーニはその声と舞台での存在感によってヨーロッパを熱狂させたが、高額な出演料とその傲慢さは、エカテリーナ2世からナポレオンまで帝国の支配者たちを憤慨させた。ロッシーニが書いた数々の役は、伝説的なマリア・マリブランなどメゾソプラノのディーヴァを生み出した。1830年代になると、ソプラノのジュディッタ・パスタが、《ノルマ》などベッリーニのオペラの初演で歌い、ミラノ・スカラ座を震撼させた。
トップに君臨するディーヴァと呼ばれたいなら、《椿姫》のヴィオレッタや《アイーダ》のタイトルロールで大成功を収めなくてはならない。世界各地でオペラハウスや音楽院が開設される時代にあって、ヴェルディは国際的な聴衆の心に一瞬で届く役の歌をいくつも書いた。プッチーニの感動的なプリマ・ドンナたち、トスカ、マノン・レスコー、蝶々夫人、ミミは、ディーヴァを生み出す役の殿堂に名を連ねるだろう。華やかなチェコのソプラノ、エミー・デスティンは、プッチーニによる悲劇のヒロイン役の名声を世界的規模で高めた初期の歌手の一人だった。
ヴァーグナーのオペラにはかなりのスタミナと独特の声楽技法が必要とされる。論争の的になりがちな「ヴィブラート」(音を細かく震わせるような発声)だが、ヴィブラートのおかげでオーケストラの豊かな音量を超えて声が遠くまで届くのだ。有名なヴァグネリアン・ソプラノのディーヴァ、リリー・レーマンはその草分け的存在で、その後、数世代にわたるジークリンデやブリュンヒルデ歌いの歌手たちに刺激を与え続けた。さらに、リヒャルト・シュトラウスのオペラは、歌唱を20世紀の新たな道筋へ導くような別のタイプのプリマ・ドンナを必要とした。とはいえ、数少ない例外を除いて、現代のディーヴァも現代的オペラの抽象的な役柄より、過去の時代のドラマティックな人物の方を好んでいる。