「フェルマーの最終定理」は、序章にすぎない 青木薫が「数学の大統一に挑む」を読む
数学に愛を向けたエドワード・フレンケル
本書『数学の大統一に挑む』の原題は“Love and Math”、直訳すれば『愛と数学』である。欧米の本のタイトルには抽象的で詩的なものが多いが、本書もそのひとつと言えるだろう。もしもこのまま邦訳版のタイトルになっていたら、日本の本屋さんは、本書の分類に困ったかもしれない。だが、この原書タイトルには、著者エドワード・フレンケルの熱い思いが込められている。米国のある書評子は、この本は、フレンケルが数学に宛てたラブレターだと述べた。本書を読み終えられたみなさんは、たしかにそうかもしれないと思われるのではないだろうか。ここには数学に向けた彼の愛が溢れているからだ。しかしそれだけでなく、数学の力と美しさを、読者であるあなたに伝えたいという情熱がほとばしっている。文系の読者ならば、「ちょっと待って」とたじろいでしまいかねない、不思議な気迫がここにはある。
そんな本書を読み解くためのキーワードをひとつ挙げるなら、私は「諦めない」を選びたい。本書は、2つのテーマを縦糸と横糸として織りなされたタペストリーとみることができよう。縦糸は、数学者としてのフレンケルの半生、そして横糸は、数学の大統一理論とも言われる「ラングランズ・プログラム」を紹介することだ。そのどちらの糸も、「諦めない」という、フレンケルの強い意志によって紡がれていると思うのである。
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