NHKドラマPが語る「女性を描く作品」なぜ増えた 話題作「燕は戻ってこない」を制作した背景
「基や千味子は、仮に二分するなら、悪者にされがちな登場人物だと思います。でも、私はこの2人に触れながら『自分の遺伝子を残したいと願うことはそんなに悪いことなんだろうか?』とか『高額なお金を払うとなったら、私だって相手を選ぼうとしてしまうかもしれない』と感じたんです。そういう考えが自分の中にもあったことに気づいたのは、この作品に出会えたからこそのものですね」
自分の中にたしかに存在する感情に出会うということは、気づかなかった自分に出会い、自分を揺さぶられるということにも近い。とはいえ、同作は少なくとも“わかりやすい”作品ではない。視聴者には届いているのだろうか。
「桐野さんの作品が好きな理由のひとつは、読んでいて『私の代わりに言ってくれている』と思えたり、『私はひとりじゃないんだ』と安心できるところなんです。ドラマを通じて、そう感じてくれている人もいるように思います。
私は、代理母になったこともなければ、不妊治療の経験もありません。でもこの作品を通じて、『きっと、こうなんだろうな』と想像することはできる。視聴者の方にも、それを“共感”と呼ぶかはわからないけど、“理解”はしてもらえている実感はあります」
多様性が採用される“NHKの土壌”
『燕は戻ってこない』に限らず、現在放送中のNHKのドラマは女性とそれを取り巻く社会を描く作品が目立っている。これは偶然なのか。
「今そういったドラマが目立っているので、くくって評していただいている実感はありますが、特に何か号令があって、女性を描いた作品が増えているわけではありません。私が入局した頃に比べると、ドラマを作るコアなメンバーの中に女性が増えてきているのは事実で、その影響もあるかもしれません。
この10年で作り手の感覚も変わってきているし、それを受け入れる土壌もでき始めている実感があります。2021年からNHKは、BBCが始めた『50:50(フィフティー・フィフティー)The Equality Project』という、出演者のジェンダーバランスを意識しようというプロジェクトに参加していて、それは制作側の意識にも影響があります。
ただ、最近特に目立っているだけで、これまでも朝ドラでは基本的にずっと“社会の中の女性”を描いてきましたし、突然生まれた価値観でもないように思います」
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