別れた夫の悪口を子どもに言わなかった母の思い 2人の「ひとり親の子育て」を通じて感じたこと

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「校長先生、息子が高校を無事卒業してん!」と満面の笑顔。傍らには、すっかり大人の顔になった息子がいました。

「えー、おめでとう!」

私は、子どものほうを向いて笑顔を返したのですが、それを見て父親は、

「先生、子どもちゃう! 自分をほめて!」

って言ったんです。

私はハッとして、「父ちゃん、よくがんばったなー!」って、その父親の頭をなでました。それを見て、その場にいた職員室のみんなが、涙を流していました。

問題児ならぬ問題"父"の存在

このお父さん、男手一つで子育てをしていて、苦労も多かったのですが、同級生の親ともめごとを起こすこともありました。

ただ、親はどうであれ、子どもの学校生活や学びは、守らなくてはいけません。だから、教職員も同級生の親たちも、息子とはずっと話をしていましたし、息子の話には耳を傾けていました。

「父ちゃん、こんなことしてん」ってしょんぼりして打ち明けられたときは、「そうか。父ちゃんも必死やねんな。でもさ、いろいろ思うけど、あんたはまだ子どもやん。だから、大人(父ちゃん)のことは、ほっとき。大空小にはこれだけ大人がいてるやん。困ったら誰にでも助けを求めや」って。

同級生の親たちも最初はひいたり、「あんな親、どこか行ってほしい」という態度すらもうかがえました。でも、父親が何か問題を起こして、やり直し(反省)をするたびに、そのことを周囲で共有しました。

最初は眉をひそめていた人たちも、次第に「あのお父さんも、困ってんねんな。もう納得したから、大丈夫」と、その親子を見守るようになっていきました。

そんな問題児ならぬ“問題な父"だった人が、無事に一人息子を高校まで卒業させることができたのです。息子は就職まで決めて、「校長先生、お金稼げるようになったから」と、初めてのお給料で抱えきれないほどたくさんのジュースを買ってきてくれました。

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