自販機で400円「ヒラメの刺し身」売る家族の物語 企業理念は「臨機応変に対応」挑戦した直販の道

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さらに、ヒラメだけでは先細りするとの考えに加え、沖縄で食べた海ぶどうの味に感動したことから、平成15(2003)年に海ぶどう養殖に着手。「沖縄よりも海水温が低い鹿児島では無理」とも言われたが、日照時間や栽培時期の工夫をすることで、鹿児島初の海ぶどう養殖に成功した。現在海ぶどうはヒラメと並んで森水産の主力商品である。  

現在は試験的になまこ養殖にもチャレンジ中。黒酢漬けにして食べるとおいしいのだとか(筆者撮影) 

森水産が大切にしているのは「売り手も買い手も廃棄せずに済む商品製造」だという。 

「ヒラメは冷蔵だと消費期限は大体5日間ぐらいですが、冷凍だと1年持ちます。さらに、買い手側も冷凍だと必要なときに出して、手軽に使えるメリットがあります」(正秋さん) 

そこで、アルコール凍結を導入。マイナス約30度の液体に真空パックした魚を沈めて急速冷凍する方法だ。 

「冷凍技術も上がってきて、普通の冷凍庫でゆっくり冷凍するのに比べると格段においしくなりました。でももっと味や食感を追求したかったので、今度はアルコール凍結をする前に、ある特殊な処理をして魚の水分というか臭みを抜くようにしたら、食感も味も、かなり納得のできる刺し身が作れるようになりました」(正秋さん) 

冷凍で消費期限の長い商品を作ることに加えて、前回の記事で紹介したように直販できる自販機を置いたことでヒラメを無駄なく加工できるようになり、廃棄率の大幅な削減に成功した。 

企業養殖が増えていく中で、家族経営 

近年は大手企業が資本力を生かして陸上養殖に参入する例が増えている。そんな中で、家族経営の養殖場だからこその生存戦略は何かあるのだろうか。 

「うちの家内も、大手が養殖を始めたけどうちは小さいから潰れるんじゃないのって心配していました。でも私は反対だと思うんですよね。大手になれば設備投資も従業員もそれなりに入れるわけでしょ。自分なんか設備もそんなにせんでもいいし、人件費もそんなにかからない。何かあった時はすぐ動けるから、小規模なのが強み」 

海ぶどう養殖でも、いけすの上に網を取り付けて日光を遮るなど、自分でカスタムしながら試行錯誤(筆者撮影)

実際に韓国に買い付けに行ったり、加工場を設けたり、冷凍設備強化や自販機設置を行ったり、海ぶどうの養殖を始めたりと、常にフットワーク軽く対応してきたことで今がある。 

「ひらめ養殖一本だけでやっていて廃業したところをたくさん知っています。同じことはずっと続かんから、常に次は何をすべきかを考えている。今は海ぶどうが好調だから、これを鹿児島で広めるにはどうするかって考えています」 

2代目の正秋さんも、海ぶどうの販売に意気込む。 

「鹿児島市内のお客さんから、海ぶどうを買いたいと問い合わせの電話をたくさん頂いているので、自販機を鹿児島市内にも置けないか検討中です。海ぶどうもですけど、ヒラメを食べたことのない人は、体感としては鹿児島でもかなり多いですね。もっと身近に感じてもらいたいと思っていますし、その足がかりが自販機なので、強みを生かして広めていきたいです」 

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