自販機で400円「ヒラメの刺し身」売る家族の物語 企業理念は「臨機応変に対応」挑戦した直販の道

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「韓国の養殖業者さんからは『厳しい、他の人は何でも買ってくれるのに』と言われましたが、その分たくさん買うようにしたら次第に協力的になってくれました」 

品質に気を配ったため、日本国内でも「韓国ヒラメは森さんに任せればいいものが手に入る」という評判を得られるように。 

10トンの活魚車には「大物を求めて走らせる男のロマン」と座右の銘を記す (画像提供:森水産) 

こうして、平成9(1997)年から平成13(2001)年まで約4年韓国ヒラメの輸入を手掛けたが、その頃になると日本から参入する会社が増えていた。 

「よその人がやりだしたわけよ。利益率も悪くなったからやめました」 

単身韓国を訪れ、苦労して切り開いた活路をすっぱりやめてしまう決断力に驚く。輸入を辞める1年前に自社の養殖場隣に加工場を設立していたため、その後は日本国内でのヒラメの買い付けもしつつ、加工に力を入れる。自社のヒラメは活魚で卸すスタイルから、加工場でフィーレにして卸すスタイルへと切り替えた。 

「その頃になると、料理屋さんが活魚の採算が合わんから、店にある水槽を使わんようになって。これからは活魚じゃないなっちゅうことで」 

加工場ではヒラメから骨と皮を取り除いたフィーレの状態にして真空パックした後に、急速冷凍して卸す。つまり、あとは店側で刺し身にするだけの状態である。スーパーでは、刺し身盛りにして売ることが多いという。 

当時でも、「ヒラメは活魚でないと売れない」という意見もあったが、10年先、20年先の変化を見通して踏み切った。実際に、活魚の需要はどんどん落ちていると2代目の正秋さんも言う。 

「今はもう、スーパーで魚まるごと1匹をさばける人がかなり減っていますね。まして、ヒラメは捌くのにかなり技術のいる魚ですから。今はフィーレで卸していますが、これから数年しないうちに、さらにスライスして刺し身の状態にまでしたものを真空パックで納品するのが主流になってくるんじゃないかなと思います」(正秋さん) 

自販機で購入した森水産のヒラメ刺し身(400円)(筆者撮影) 

企業理念は「臨機応変に対応する」

ヒラメを活魚からフィーレ、そして刺し身と、時代の流れに応じて加工度を上げて対応。いち早く先を見据えた取り組みは、1代目と2代目で共有している価値観だ。森水産の公式サイトを見ると、企業理念に「臨機応変に対応する」と書かれている。シンプルだが森水産のあり方を示す本質的な言葉だ。 

「頭に浮かんだことをすぐ実行に移さんとね。動かずに考えているだけなのは嫌いなんだよな。息子もそう。自分の仕事のやり方を子どもの頃から見ているからか知らんけど、いい冷凍設備を入れたり、自販機を置いたり、息子も先を見据えていろんなことをやっていますね」 

現金はもちろん、さまざまなキャッシュレス決済にも対応。ふらっと立ち寄った人も買いやすい仕組みがすべて整っている(筆者撮影)
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