自販機で400円「ヒラメの刺し身」売る家族の物語 企業理念は「臨機応変に対応」挑戦した直販の道

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「ヒラメを1キロ仕上げるのにかかる原価が確か500~600円くらいかな。それが5000~6000円で売れるから」 

育てたヒラメは、自ら軽トラックを運転して市場へ売りに。ほかの養殖業者は、輸送専門の業者に頼んで出荷する人も多かったが、森さんは「自ら売りに行く」ことにこだわった。 

「市場に行くことによって他社のヒラメも見れますよ。自分のヒラメがいいのか、よそのとどう違うのか、見て自分で勉強せないかんちゅうことで。九州各地や四国から魚が集まってくるから、自分の魚がみすぼらしかったら恥ずかしいがね」 

そうしてヒラメ養殖は軌道に乗り、平成4(1992)年には法人化。憧れの車も購入できた。しかしその後、韓国からの輸入ヒラメが入ってくるようになる。国産と比べて安価で品質も良い韓国ヒラメの勢いに押され、売り上げの落ちる国内の養殖業者が数多くいたという。そこで森さんは、韓国物と競うというよりは、関わる道を選ぶ。 

「そんなに売れるなら自分で仕入れよう」と輸入に挑戦

「今から考えるとびっくりするけど、そんなに売れるなら自分で仕入れようと思ったんです。平成9(1997)年から。自分のヒラメ養殖場は続けながら、輸入に挑戦することにしました」 

すぐに書店へ行き韓国語の本を購入。一からすべてを勉強するのは大変なので、「安い」「高い」「いくらですか」など、ビジネスで使いそうな言葉をリストアップした。準備ができたら、韓国にいる日本語通訳を紹介してもらい、済州島へ。済州島は韓国で一番ヒラメ養殖の盛んな土地である。 

しかし、通訳と共に組合を訪れたところ「仲介を通さないとヒラメは売れない」と門前払い。 

「やはり素性がよくわからない人よりも、ずっと取引のある仲介がいるほうが安心ですよね。でも諦められなかったので、通って交渉を続けました。取引してくれたら責任をもって私がたくさん売ると。すると一人の理事が味方になってくれて、他の理事を説得してくれて取引できることになりました。それが始まりです」 

ヒラメは活魚で輸入するため、国際免許を申請したり、活魚車に発電機を乗せたりと体制を整え、さらに取引で使うL/C(エルシー)※の用意もした。 

※Letter of Creditの略。輸入者が輸出者に代金を支払うための貿易決済の手段のひとつとして用いられる。 

自社の活魚車で下関からフェリーに乗り、済州島の養殖場でヒラメを積んで再び下関へ戻る。下関では取引先の活魚車が待機しているため、ヒラメを卸したら再び夕方のフェリーで韓国へ行き、翌朝ヒラメを積み込む。 

こうして運転手がピストン輸送を繰り返す間、森さんは済州島の養殖場を回ってひたすらヒラメの手配をする。養殖業者側が売ろうとするヒラメをなんでも買うのではなく、品質を見極め選別をする。自分で養殖ヒラメを手掛けているからこそ、いいヒラメがわかるのだ。養殖経験が大きく役に立っていた。 

次ページ活魚→フィーレ→刺し身 時代とともに加工度を上げて対応 
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