月に50万円売る「魚の自販機」大ヒットの舞台裏 人口数十人の小さな集落に、客が途切れないワケ
―商品の補充はどのくらいの頻度でしていますか?
自動販売機の在庫や温度、販売履歴、消費期限、不具合などはすべてクラウドサーバーと連動して、リアルタイムにスマートフォンで見られるようになっています。いつでもどこでも確認ができるので、商品が切れそうな時に補充しています。大体一日に2回、よく売れる時期は4、5回程度です。
ただし、海ぶどうはいつでも買えるように補充していますが、なるべくロスを出したくないので賞味期限の短い刺し身は置く量を少なめにして、時間帯によっては売り切れたままにしています。刺し身は朝入れているので、欲しい場合は午前中に来ていただいたほうがいいかもしれません。
消費期限を設定しておけば、自動でもう商品が出なくなり、販売中止か売り切れという表示になります。基本的にそうなる前に全部売れて商品は入れ替わっているので、この機能が使われることはないですけどね。
―自販機を置いてよかったことは?
ヒラメの廃棄率が大幅に減ったことです。
スーパーや量販店向けに卸す場合、「1キロくらいのものを捌く」など加工するヒラメの規格が決まっているんです。でも、小さいものや大きくなりすぎたものもいます。
こうした規格外品はサイズが違うだけで味は変わりませんが、量販店向けには扱いづらいというか、卸せていませんでした。B級品として市場に卸していましたが、金額も安くなりますし、全部買い取ってもらえるわけではないので、残った分は廃棄するしかありません。
自動販売機を設置して直販できるようになったことで、こうした規格外のものをうまく利用できるようになりました。以前は50%ぐらい廃棄していたのが、10%以下と大幅に減りました。
―逆に言えば従来は規格外というだけで、なかなか行き先を見つけるのが大変だったんですね。
そうなんです。さらに、以前は廃棄していたヒラメの皮や骨も今はチップスにして販売していてこちらも結構売れています。
中骨だけは硬いので使わずに処分していましたが、取引のある銀行経由でペット向けにジャーキーを作る業者さんを紹介してもらったところ、そこで犬・猫用のジャーキーを作るのに使ってもらえることになりました。そこの業者さんが言うには、ヒラメは脂身が少ないので、乾燥させやすいそうです。通販で販売すると、ヒラメの商品は珍しく、すぐに完売するとのことです。
なので、今は捨てるところといえば内臓くらいですね。でもその内臓も、肝や胃袋は活用の道がありそうです。
キーワードは「人と違うことをする」
―魚の内臓はおいしく食べられる部位でも、鮮度や加工など取り扱いの難しさからか、さほど流通していないですよね。
うちは自社で生産から加工までやっているので鮮度抜群です。一度、ヒラメの肝の唐揚げを自販機で売ってみたところ大人気でした。もう在庫を作るのが追い付かないくらい売れて、加工も大変だったので、今はいったん販売中止していますが、ヒラメの肝に大きな可能性があることがわかりました。
あと、ヒラメの胃袋も活用できそうです。塩漬けにしたタラの胃袋や腸を唐辛子ベースの調味料に漬けこんだ「ちゃんじゃ」という料理がありますが、これはヒラメの胃袋からでも作れるみたいです。なので、今ヒラメの胃袋を冷凍でストックして、チャレンジしてみたいなと思っています。
―ほんと、まったく捨てるところがないですね。これからの自販機の商品展開がすごく楽しみです。ありがとうございました。
今回は自販機の発案者である2代目の森正秋さんに話を伺ったが、1代目の森正彦さんの話も極めてユニークで面白いものだった。2代目の正秋さんがコロナ禍でいち早く自販機で直販の道を探ったように、1代目の正彦さんも長年養殖業をやる中で常に10年先、20年先を見据えた取り組みをし続けてきている。キーワードは「人と違うことをする」ことだという。
次回の記事では、いかに時流に応じて変化して今に至るのか、森水産のこれまでを紹介する。
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