ギリシャ危機はユーロ相場の絶好の押し目 "壮大な投機"の効果は一時的

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それでも過去1年間、ユーロ相場が大幅下落してきたのは2013年11月のサプライズ利下げに始まり今年1月の量的緩和(QE)導入に至るまで矢継ぎ早の金融緩和が行われたためであり、恐らくその狙いは通貨の低め誘導にあった疑いが強い。その上で今春以降はギリシャ情勢の緊迫化という材料が加わり、ユーロ相場は歴史的な水準まで下落したのである。

結果、通貨としてのファンダメンタルズの強さは残しながらも、内外金利差を念頭に置いた「壮大な投機」がユーロ相場の方向感を形成してきたのである。投機筋の動向を映すと言われるIMM通貨先物取引の状況を参考にすれば、ユーロの対ドルでの売りポジションは今年3月時点で約300億ユーロ(筆者試算)と、まだ債務危機がくすぶっていた2012年6月以来、約3年ぶりの高水準に達した。

維持が難しい「壮大な投機」

だが、ファンダメンタルズに反し投機主導で「演出」された通貨安は持続しない。リスク許容度が著しく毀損するような局面に入った場合、そのポジションは解消されざるを得ないからである。結果、ファンダメンタルズの強さだけが残される。

例えば、2014年通年のユーロ圏経常黒字は約2100億ユーロ、日本円にして約30兆円(14年末の1ユーロ=145円で試算)だが、これは日本の経常黒字がピークだった2007年通年の約25兆円よりも大きい。ユーロ圏の実質金利に関しては、足元ではECBによる量的緩和で名目金利が抑制され、原油価格のベース効果剥落によって消費者物価指数(HICP)が浮揚しているので、とりわけ高水準とは言えなくなっているが、それでも周縁国国債には投資妙味が残った状態である。投機的な売りが続かない限り、こうしたファンダメンタルズは上昇要因として散発的に顔を出してくることになる。

筆者は過去1年で見られたユーロ安局面は「円キャリー取引の隆盛を迎えていた2005~07年の円安局面と似ている」と考えてきた。2014年春から継続するユーロショートの蓄積やそのペースは2005~07年の円を陵駕するほど大きく、深いものである。「このような性急なポジション形成が持続するはずがない。それゆえユーロ相場の反転を見込むべき」というのが筆者のユーロ相場に対する基本認識である。

ちなみに今年4 月15~16 日分のECB理事会議事要旨は3 月18 日に見られたユーロの対ドルでの急騰(2~3時間のうちに1ユーロ=1.06ドル から1.10ドル へ、1 日では4.4%上昇)はユーロ導入以来、過去2 番目に大きな動きであったと指摘しているが、これは上で述べたような投機筋の買い戻しによりひき起こされたと分析している。筆者も同感である。ユーロ売りには相応の覚悟が必要である。

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