藤井聡太に挑戦「豊島九段」が人との練習やめた訳 "孤高の努力家"が「棋聖」獲得までに行ったこと
四段には間違いなくなるだろう。だがA級、タイトルを獲るかという視点で見たときに大丈夫だろうか。「傷ついて将棋との距離を置いてしまったら、普通の棋士になってしまうかもしれない」。そう感じていた。
ソフトがない時代だったら、豊島はもっと早くタイトルを獲っていたと畠山は思う。ソフトとの距離感で悩み、自分を追い込みすぎてしまったのではないか。対局や感想戦の様子を見ていると、「誰を相手に戦っているのだろう」と感じることがあった。
家に籠って研究し続けることは、精神的にもつらい。コミュニケーションのない孤独な作業だ。畠山は、豊島は賭けたのだと言う。
「ソフトという人間よりもミスの少ないものに。もしかしたら、それによって潰れるかもしれない。でも、絶対これで強くなるんだと」
最後にこう言った。
「未だにそれに賭けきれない棋士が、多いのではないか」
豊島九段の変化
豊島は語る。
「高校時代は、学校が終わるとずっと棋士室にいました。クラスの友だちと遊ぶことは、ほとんどなかったですね。
独りで将棋の研究をしていても、寂しさは感じません。コンピュータも手を示したら返してくれるので(笑)。電王戦の後しばらくは、ソフトは友だちみたいな感覚だったかもしれません。いまは先生みたいな感じですけど。
ソフトも使っていくうちに、どういう思考をしているのかわかってきます。昔はよく間違えることもあったので『さすがにそれは、ないんじゃないの』とか。思考といっても計算しているだけなんですけどね。
コンピュータは局面の検討に使っています。評価値で示してくれるのが刺激的というか。でも人間と指すほうが、圧倒的に楽しいです。
いまは自分の棋力が伸びていると思って、将棋を指しています。でもそれが下り坂になったら。35歳、40歳になって、だんだん勝てなくなったときに、それでも頑張るということがどういうことなのか。続けていけるのかと、よく考えます。師匠(桐山清澄九段)の将棋を見ていたら、やっぱりすごいなと思います」
豊島にとって5度目のタイトル挑戦が2018年夏に巡ってきた。第89期ヒューリック杯棋聖戦は、羽生善治がタイトル通算獲得100期をかけた防衛戦でもあった。
前夜祭の話題は羽生が中心だったが、豊島にはそれはむしろありがたかった。「これまでは自分が初タイトルを獲るかと注目されてきました。(違う雰囲気の中で)流れが変わるかもしれないと思いました」。豊島が先行した五番勝負は、第4局で羽生が勝ち、最終局へともつれ込んだ。
初めてタイトル戦に出てから7年半がたっていた。その間に、関西若手から糸谷哲郎が竜王、菅井竜也が王位を獲得した。斎藤慎太郎も前年の棋聖戦で羽生に挑んだ。斎藤は豊島が20歳で王将に挑戦したとき、まだ三段リーグで、第4局では記録係を務めていた。
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