やたら「報連相」重視する人に伝えたい上司の本音 ただの責任逃れ?何のための報告かを考える

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あるメーカーの営業チームで、このようなことがあったそうです。その会社では、営業先に向かう際、担当者が自分で車を運転することがよくあります。日々の運転の中では、ちょっとどこかに車をこすってしまった、というようなことも、さほど珍しいことではありませんでした。車に傷をつけてしまった場合でも、特に罰則はなし。ただ「報告するように」と社員には伝えられていました。

しかし、何度言っても、その報告が上がってこない。何人かで交代で車を使っているうちに、気づくと傷が増えている、という状況が続いていました。

この場合、どうすべきだと思いますか?

この話をしてくれた方は、その後、上司が部下たちにあることを伝えたら、社員の目の色が変わり、傷にもならなかったようなちょっとした接触でも報告するようになったと教えてくれました。上司が伝えたこととは、次のような内容です。

『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策』(日経BP)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

「今は、スマホですぐに撮影ができる。事故を撮影した人が、会社に連絡をしてくれればいいが、いきなりネットにアップされたりしたら、会社としても対応が後手に回る。そうなれば、運転をしていた皆さんの顔や名前までさらされることになるかもしれない。〇〇会社の社員がこんな事故を起こしたと広まり、炎上してしまったら打つ手がない。だからその前に、なるべく早く報告してほしい」

この話を聞くまでは、部下にとっては「報告=自分のミスをわざわざ伝える行為」でした。しかし、なぜ報告が必要なのかを知ったことで、「報告=ミスの次に起こり得る炎上を防ぐ行為」に変わったわけです。

このように、ホウレンソウのない職場は、「なぜそのホウレンソウが必要なのか」を部下が気づいていないことに上司が気づいていない、という二重の問題となっていることも多いものです。

上司としてホウレンソウを求めるのならば、「なぜホウレンソウが必要なのか」をきちんと説明することが、「相手の立場」に立ったコミュニケーションといえるでしょう。

今井 むつみ 慶応義塾大学環境情報学部教授

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いまい むつみ / Mutsumi Imai

慶応義塾大学環境情報学部教授。1989年慶応義塾大学大学院博士課程単位取得退学。94 年ノースウェスタン大学心理学部Ph.D. 取得。専門は認知科学、言語心理学、発達心理学。主な著書に『ことばと思考』『学びとは何か─〈探究人〉になるために』『英語独習法』(すべて岩波新書)、『ことばの発達の謎を解く』(ちくまプリマー新書)など。共著に『言語の本質─ことばはどう生まれ、進化したか』(中公新書)、『言葉をおぼえるしくみ─母語から外国語まで』(ちくま学芸文庫)、『算数文章題が解けない子どもたち』(岩波書店)などがある。

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