2060年の財政を「持続可能」にする増税以外のカギ 内閣府の長期試算が示す条件付きの未来予想図

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これを踏まえて、公債等残高対GDP比はどうなるかをみると、2040年代以降ほぼゼロ成長である現状投影シナリオでは、医療・介護費の対GDP比が前述のように上昇することもあって、基礎的財政収支対GDP比が年を追うごとに悪化して赤字幅が拡大するため、公債等残高対GDP比は上昇が止まらず300%近くに達するという。

実質成長率が2030年代以降、1.1~1.3%で推移する長期安定シナリオでは、公債等残高対GDP比は2040年代までは低下するが、その後反転して上昇するという。これは、医療・介護費が、現状投影シナリオよりも緩やかとはいえ、2040年代以降も増加し続けて、基礎的財政収支が悪化してしまうからである。

ただ、前述のように、改革に取り組んで医療・介護費の増加を吸収することができれば、2040年代以降も公債等残高対GDP比は低下し続け、日本の財政は持続可能となることが示された。

未来予想図を実現するためにやるべきこと

今般の内閣府の長期試算は、論理的な可能性を突き詰めて、今後の日本の経済・財政・社会保障の姿を示す意味で意義深い。とはいえ、何の追加的な努力なしに実現するほど楽観できるものとはいえない。

実質成長率を2060年まで(平均的に)1%超で維持し続けられる産業構造にしてゆかなければならないし、国民負担を増大させないような医療・介護の改革にも手抜かりなく実行しなければならない。基礎的財政収支の黒字を2025年度以降も2060年度まで最低でも35年間悪化させないように維持し続けなければならないことはもちろんである。

そうしなければ、公債等残高対GDP比は低下し続けないのである。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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