「このようなお取り次ぎを介してのご挨拶は、私にはまったくはじめてのことです。恐縮ではございますが、真面目に申し上げたいことがあるのです」と光君が伝えると、
「何を誤解なさっているのでしょう。本当にご立派なご様子ですから、ご対面してどのように返答してよいのやらわかりません」と尼君はためらっている。
「けれど、決まり悪い思いをさせてしまってはいけませんから」と、女房たちは対面を勧めた。
「そうですね、年若い女性なら困ったものでしょうが、そうではない私ならかまいますまい。御心をこめておっしゃってくださるのだから、畏れ多いことです」と、尼君はいざり寄った。
亡くなられたという母君のかわりに
「はじめてお目にかかりますのに突然こんなことを申し上げては軽薄と思われるかもしれませんが、私自身はいたって真剣です。御仏はもとより私の真意をお見通しと思います」
と光君は話しはじめるが、尼君の落ち着きはらった気詰まりな様子に気後れして、すぐには言い出すことができない。
「いかにも、思いもかけませぬこのような時に、こんなに親しくお話を伺えますのは、軽薄なんてとんでもないことです、ひとかたならぬお気持ちからと存ぜられますが」と尼君は言う。
「姫君はおいたわしいお身の上と伺いました。この私を、亡くなられたという母君のかわりと思ってくださいませんか。私もごく幼少の折に、親身にお世話いただけるはずの人に先立たれ、ずっと頼りない気持ちで虚しく月日を過ごしています。姫君も私と同じようなお身の上でいらっしゃるようですから、お仲間にしていただきたいと心から申し上げたいのです。こうした機会はめったにありませんから、どのようにお思いになられてもかまわないと思い切って申し出た次第なのです」
それを聞いて尼君は言う。
「本来ならたいへんうれしく存ぜられますお話ですが、何か聞き間違えていらっしゃることがおありではないかと、憚られます。老いた私ひとりを頼りにしている娘はおりますが、まだ聞き分けもない年頃でして、大目に見ていただけるところもまるでないと存じますので、お話を本気で伺う気持ちにはなれません」
「私はすべてくわしく聞かせていただきました。どうぞ堅苦しくお考えにならないでください。いい加減などではない、私の思いの深さをどうかご理解ください」
と光君は言うが、いかにも不釣り合いなことをそうともわからずにおっしゃっているのだと尼君は思い、真面目に取り合おうとしない。そこへ僧都が戻ってきたので、
「まあ、いいでしょう。お願いの口火はもう切りましたから、心丈夫というものです」と光君は屛風を閉めた。
次の話を読む:「少女への思い」語る光君と、聞き入れぬ者の逡巡
*小見出しなどはWeb掲載のために加えたものです
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