水原氏「学歴詐称疑惑」に見る"盛る人"の危うさ 理想の自分を目指すも、かつてのウソで台無しに

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これらの「経歴詐称疑惑」に共通するのは、その舞台が海外である点だ。もし自分がウソをつくなら……という立場で考えてみると、まず「関係者に接触しづらくバレにくい」ことが挙げられるだろう。言語の壁はもちろん、そもそも物理的距離も離れている。

たとえ疑われても、「日米で『在学』や『卒業』の解釈が違う」などと言ってしまえば、「ふむ、そういうものか」と納得してしまう気持ちもわかる。情報源へのアクセスの難しさは、追求・追及を諦める要因にもなる。自分で確かめにくい情報であれば、ひとまず、より詳しいであろう相手の発言を信頼するのが手っ取り早い。

「盛る」行為を気づかぬうちに手助けしている一般市民

いくつか例を出してきたように、とくに海外経験を絡めた詐称は、日本でもたびたび話題になる。

もし経歴を詐称したとすれば、当然もっとも非があるのは、ウソをついた側だ。しかし、社会全体を眺めると、そうした「盛る」行為を気づかぬうちに手助けしている一般市民は、それなりに多いように思える。「海外留学」や「外資系勤務」といった肩書をありがたがって、実力以上に評価してはいないだろうか。

もちろん、海外経験を実際に積んで、バリバリ活躍している人材は数多い。しかし、その人自身を評価する以前の段階で、「舶来の雰囲気」を感じ取るだけで思考停止して、評価を見誤ってしまう。

これは、中高年を中心に「国際ロマンス詐欺」の被害が相次いでいることとも通底する。海外在住や外国籍の軍人、医師、パイロットなどを名乗る人物と親密になり、金銭を求められる。「2人の未来のために」などと言いくるめられ、入金すると……。金の切れ目は縁の切れ目。途端に「恋人」は姿を消してしまう。警察庁の調べによると、2023年に1575件が確認され、被害総額は約177.3億円にのぼるという。

ネットメディア編集者らしい話も挟んでみよう。SNS上では、たまに「元GAFA勤務」を名乗るユーザーを見かける。この肩書を見たとき、「ああ、グーグルとかで働いていたのね……」と判断したあなたは、ちょっとお人よしが過ぎる。ためらいなく信じて、情報商材を買わされてからじゃ、後の祭りだ。

そもそも「有限会社GAFA」という企業で働いていたかもしれない(実在していたら申し訳ありません)。たとえIT大手を指していたとしても、その職種や雇用形態はさまざまだ。Amazonの配送センターや、Apple Storeの店員も、間違いなくGAFA勤務と言える。中には「業務委託で数カ月だけ働いていた」という人もいるかもしれない。

もちろん、これらの人々がGAFAの正社員より格下というわけではない。筆者が言いたいのは、あくまで、その人の本質を見抜くことが重要なのではないかということだ。

あらゆる可能性を考えず、「なんかすごそう」と過大評価してしまえば、いつしか「国家間のサイバーテロと戦うホワイトハッカー」だとか「数兆ドル規模の事業を差配するプロジェクトリーダー」といったイメージを膨らませてしまいかねない。

次ページ憧れが肥大化すると、偽りを呼び寄せてしまう
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