恩田陸作品史上「もっとも美しくヤバい天才」爆誕 萌え保証!一人の天才少年をめぐる「春」の物語

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今作『spring』は、萬春という天才ダンサーの成長と活躍を、各章、4人のキャラクターがそれぞれの視点で立体的に語っていくという、4章立ての巧みさも印象的だ。

「筑摩書房のPR誌『ちくま』2020年3月号からの長期連載ですが、4人の語りで1章10回、全40回で終わるっていうのを最初に決めていたので、予定通りでした。『蜜蜂と遠雷』もそうでしたが、私の連載は『いつ終わるんだろう』と作者もわからないなんてのもあるんです。最後の章は、実は春本人を語り手にするとは決めていなくて、3人称にしようかと思っていたんですよね。ところが意外なことが起きて」

キャラクター本人がしゃべり出した

漫画家や小説家や脚本家、フィクション作家に話を聞くといつも驚かされる、「キャラクターが勝手にしゃべり出す」という不思議な現象が、恩田の今作にも起きたのだという。

「やっぱり、春本人に語ってもらわなければダメだと。1章から3章まで他人の視点で書いているときは、出来事は語られても、春がどういう性格か、どういう人なのかわからなかったんです、作者にも。でも本人に語らせてみたら意外な性格が出てきて、これまでの“答え合わせ”のようなことが起きた。逆に、本人にしゃべらせてみないとわからないことってあるんですよね」

(撮影:今井康一)

登場人物たちが、たまたま同時代の同じ場所に、春という天才と“居合わせる”という表現も印象的だった。「才能ってなんだろう、というのも私のテーマなんですけれど。バレエや音楽やスポーツなどの世界を観ていて、才能ある人が揃って出てくるとき、面白いなと思うんですね。日本ではないけれど、パリのオペラ座バレエ団はそれぞれの世代に固まって出てきて、一緒に切磋琢磨している。将棋の羽生世代じゃないですが、一人だけじゃなく、ライバルと巡り合わせるのはすごく大きいことだと感じるんです」

才能、といえば、恩田のような作家の才能もいったいどうなっているのだろう、というのが筆者のような凡人の感想だ。発想もすごいが、書き続ける量もすごい。

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