恩田陸作品史上「もっとも美しくヤバい天才」爆誕 萌え保証!一人の天才少年をめぐる「春」の物語
だが、創作の現場は命と引き換えの修羅場でもある。「初めは寡作と言われていたんですが、独立して複数の連載を掛け持ちするようになって、さすがに途中で具合が悪くなったんです。独立して2年後くらい、35のときに寝られなくなって。眠くないな、なんでだろうなんて思っていたら、ばさっと髪の毛が抜け始めて、お風呂場の床が髪の毛だらけ。医者で診てもらったら数値的にはどこも悪くない。全身脱毛症で、上から下に毛が抜けていって、びっくりしました」。
もちろんそれは創作のプレッシャーゆえだった。「創作には、量をこなさないとわからない部分というのもあるんですが、限界を超えたんですね。独立した時代は年間6000枚なんて書いてて、確かにそりゃ限界は超えたかな。そのころは体力もあったので、一息で80枚とか書けてたんです」。
修羅場を乗り越えて、自分の才能を乗りこなす技術を身につけた作家は強い。多作の恩田は、過去は振り返らない。「2年経つと文章が変わっちゃうんです。単行本が出て、次に文庫版が出るときには『今はもう、こうは書かないな』と思うことも。文章の息継ぎの場所が違うんですよね、今はこういう息継ぎはしないな、って。だけど書き直すなんてことは考えません。自分がもう別人になっちゃってるから。感じ方、考え方も変わっちゃってるんです」。
戦慄せしめよ
「才能ってなんだろう」。恩田のテーマであるが、この連載がいつも作家たちの姿を前に考えさせられることでもある。
妄想し、創作した1日の終わりに、恩田は自分を解放するかのようにビールを飲み、そして寝る前には必ず本を1冊読む。
「やっぱり、人の本を読むと『最後までできてていいな』って思うんですよ。よくよく考えたら、この本を書き上げた人も実際にいるわけだから、偉いなって。漫画小説に限らず新書でも、フィクションでもノンフィクションでもアクションとかも」
まだ誰も読んだことのない文章を書いて本にする “創作の人”は、生みの苦しみを知る者ならではの、ちょっと不思議な角度からの感情を吐露してくれた。恩田が「世界を戦慄させるバレエの天才」を描いたのも、同じ“創作の天才”としての尽きぬ興味と、憧憬ゆえなのかもしれない。
「この『spring』を読んでバレエに興味を持たれた方は、ぜひ劇場に足を運んでみてください。バレエって実際面白いんです。実物のバレエや、ダンサーたちをご覧いただきたいです」
『spring』はその名の通り春分を経た3月22日発売、初版には限定書き下ろし掌編のQRコードも収録される。美しい装丁に彩られた書籍から万華鏡のように広がる世界を、ぜひお楽しみいただきたい。
(文中敬称略)
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