たとえばチェスキンの研究にはピアレビューがなかったが、現代ではほぼすべての論文がきちんとほかの科学者による検証を受ける。期待が味覚にもたらす影響についても、その後にピアレビューを受けた論文が何本か発表されている。
2006年にテキサス大学オースティン校マコームズ・スクール・オブ・ビジネスの教授ラジ・ラグナサンが行った研究もその一つだ。
食品がヘルシーであるという情報をあらかじめ教えられていた場合、その期待が味の評価をどう変えるか調べている。
ラグナサンの実験では、被験者にインド料理と飲み物をふるまった。半分のグループには、ラッシーは健康に効くドリンクだと教える。残りの半分のグループには、ラッシーは健康にいいとかそういう類のドリンクではない、と教える。食事のあとに味の採点を求めると、ラッシーは健康とは関係ないと思わされた被験者たちのほうが、そうでないグループと比べて55%も高く料理を称賛していた。
最後に第3のキーワードは、「レンジ(Range)」、幅広さである。
行動科学のルーツは社会心理学にあり、社会心理学の歴史は1890年代までさかのぼる。心理学者は長い年月をかけて、人間の行動を促す隠れた要因を何千種類も特定してきた。これだけの幅広さがあるのだから、マーケティングの課題が何であれ、関係のありそうなバイアスを見つけて利用することはできそうだ。
マーケティングに役立つ数々のアイデア
レリヴァンス、ロバストネス、レンジ。この3つが、ビジネスに行動科学を取り入れるべき強固な理由だ。とはいえ、応用すべきだと知っただけで、すぐに実際の応用につながるわけではない。多彩だからこそ、出発点を見つけるのに迷うこともあるだろう。
本書はそうした壁を取り払うことを目指している。多種多様なバイアスをやみくもに検討しなくてもいいように、もっとも役立ちそうなものだけを選び抜いた。本書で紹介する16と1/2のアイディアは、応用もしやすく、マーケティングに絶大なインパクトをもたらす力をもっている。
(翻訳:上原裕美子)
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