のちに、サブリミナル広告の話はヴィカリーのでっちあげだったことが明らかになる。彼はそんな実験を一度もしたことがなかった。だが、時すでに遅し。それから50年以上も心理テクニックは敬遠され続けた。
行動科学や心理学の3つの「R」
その後、風向きはふたたび変化する。行動科学や心理学をマーケティングに応用することのメリットは実に大きいので、長く放っておかれるわけがなかったのだ。着目すべき説得力ある理由は3つある。いずれもRで始まるキーワードだ。
第1のキーワードは、「レリヴァンス(Relevance)」、すなわち関連性だ。
行動科学と心理学以上に、セールスやマーケティングに関連のある学問は考えられない。企業ならどんな業種であれ、消費者を競合ブランドから乗り換えさせたり、高価格帯の商品を選ばせたり、シリーズ商品をいっそう手広く買わせたりしなければならないが、これらはいずれも消費者の行動を変えさせることを意味する。
ビジネスとは、行動変化を促す活動なのだ。だとすれば、行動変化を効果的に促すにはどうしたらいいか、それを教える130年分の研究を活用しない手はない。そこで行動科学の出番となる。
行動科学がマーケティングと関連しているのはチェスキンの研究を見ても明らかだ。
チェスキンは学術用語を抽象的に解説するのではなく、期待が味覚にも影響するという発見の具体的な応用方法を考えた。変えるべきはマーガリンの味ではない。色を変えれば売上が伸びるとアドバイスしている。
第2のキーワードは、「ロバストネス(Robustness)」。堅牢性、確実性だ。
マーケティングの理論は根拠のあやふやなものも少なくない。本能や勘をよりどころとしてしまうのだ。莫大な金額を左右する判断をするにあたって、これは理想的な基盤とは言いがたい。
その点で行動科学は違う。高名な専門家の意見というだけで通すことはない。必ず実験を経て証明する。きちんとした科学者がピアレビュー(査読)を受けて発表した研究だ。
つまり、発見を信頼すべき確固たる基盤があるというわけだ。
感覚転移のことを思い出してほしい。見た目が味に与える影響について、チェスキンは理屈だけで主張しなかった。比較実験をすることで、何が実際に味の評価に影響しているかを分析したのである。
マーガリンの実験は1940年代のものとしては実に見事なのだが、行動科学の堅牢性は、それ以降に大きく向上した。
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