動物の死と向き合い、その死の原因を知ろうとすることは、動物にとっても飼い主さんにとっても、そしてぼくたち獣医療に携わる者にとっても、非常によいことだと思います。
遺体が持ち込まれたその雑種のネコは、すでに8歳の頃に、動物病院の健康診断で「腎臓の働きが悪くなっている」と指摘されていたといいます。
この子はその後、定期的な投薬や食事療法などを続けていましたが、加齢に伴って腎機能が徐々に低下していき、14歳のときに慢性腎臓病による尿毒症で亡くなりました。
家族同然のネコを献体
遺体を直接持ってこられた飼い主さんは50歳前後の男性でした。
ネコは家族同然だったのでしょう。
目は潤み、鼻は赤く、ひとしきり泣いた後という様子で、一見して深い悲しみの中におられることがわかりました。
そのような中で、「愛猫の体の中で起こっていたことを知るために」と献体してくださったのでした。
腎臓は、血液をろ過して老廃物(尿毒素)や余分な塩分・水分を排出したり、必要なものは再吸収したりして、体液のバランスを一定に保つ重要な器官です。この腎臓の働きが悪くなると尿が出なくなり、排出されなくなった老廃物が全身のさまざまな臓器に悪影響を与えます。
亡くなったネコの病理解剖を進めていくと、この子の体にも口内炎や舌の潰瘍、胃炎、肺炎など多くの異常が見つかりました。
そして、本丸である腎臓は色褪せて、小さくしぼんで、本来役目を果たすべき細胞の大部分が線維に置き換わっていました。
肉眼でも明らかにわかる異常です。長年にわたって慢性腎臓病と闘った腎臓の「なれの果て」がそこにはありました。
このようにして命を落とすネコは多いのです。
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