キューバ「オーガニック大国」になった意外な経緯 大国に振り回される中、たどりついた農業

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どこの市場でも品揃えはさして変わらず、並ぶのはキューバ国内で育つ野菜や果物たち。目立つのは黒インゲン豆。肉屋には豚と鶏はあるが牛はない。想定外に手に入らないのが卵で、前年のハリケーンで養鶏場が打撃を受けたこともあり、数軒市場をはしごして探すのだという。

買い物だけで、うんと時間がかかる。キューバの女性が無償家事労働に費やす時間は、1日のうちの21%。これは国際的にみてもかなり上位で、日本の15%と比べても長い。買い物に時間がかかることも、一因にあるのだろうか。

買い物から帰って昼食に作ったのは、黒インゲン豆のスープ「フリホーレス・ネグロス」だ。大豆くらいの大きさの真っ黒な豆を圧力鍋で柔らかく煮たところに、にんにくや青唐辛子の香りを移した油をじゅわっと注いで風味付けし、ご飯にかけて食べる。

見た目の通り、飾らぬ素朴な味わいだ。今日はそこにおかずが3品、オクラと卵の炒め物、アボカドとインゲンのサラダ、揚げプランテーン(調理用バナナ)が加わる。私がいるから、いつもよりおかずの品数が多い。この家では、肉を食べられるのは2週に一度、果物は贅沢品だという。冷蔵庫には水だけが入っていた。

配給システムで配られるもの

それでもフリホーレス・ネグロスだけは毎日食べられるのは、黒インゲン豆と米が配給食料として全国民に提供されるからだ。彼女が「うちで一番大事なものだよ」と言って見せてくれた配給手帳には、「米5キロ、豆1キロ、油0.5キロ、砂糖3キロ……」と月々の配給で受け取る量が記されていた。この手帳を配給所に持っていくと、少しのお金と引き換えに食料がもらえるのだ。

配給というシステムがまだ続いていることに驚きつつ、「これだけで足りるの?」と尋ねると、「量はギリギリ、生野菜はないけれど、贅沢しなければ生きることはできる」と言う。

現実には、最低限の食料を配給で得つつ、それだけではあまりに味気ないので、食卓のバラエティを求めて市場でも買う。社会主義と市場経済を合体させたベーシックインカム的な仕組みが、この国のユニークな食料システムだ。

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