マルチリンガルは、たとえ脳の機能が認知症と診断されるほど衰えても、日常生活への影響が出にくい。
モノリンガルとバイリンガルの脳の機能を厳密に比較した研究によると、バイリンガルは、記憶力と認知機能の低下がモノリンガルよりも少ない。それに、MMSE(ミニメンタルステート検査)など認知機能を測定する標準テストでもモノリンガルより好成績だった。
複数の言語を話す人は認知症の発症が遅くなるという現象は、「認知予備能」として知られている。
認知予備能とは、脳の生理学的な状態と、実際の認知機能のレベルの違いを表す表現だ。代替となる認知リソース(予備能)を持っていることは、脳の病気やストレスといった抑制に対抗する有効な手段となる。
この能力を、脳のダメージに対するレジリエンスだと考えてみよう。
認知能力の予備をたくさん持っている人は、予備の少ない人に比べ、たとえ病気、加齢、ストレス、一時的な健康状態の悪化などで脳が同程度のダメージを受けていても、認知機能を使うタスクで高い能力を発揮することができる。
特に影響が大きい要素は「教育」
認知症や、認知機能の衰えに関する研究からわかるのは、教育レベルと、複数の言語を話すことは、病気の進行を遅らせる要素になるということだ。
この2つのライフスタイル要素は、運動、ストレス管理、そして生涯を通じて好奇心を保つことと並んで、年を取っても頭脳明晰でいる助けになってくれる。
もちろん、脳の健康に効果がある経験は、母語以外の言語を話すことだけではない。音楽は豊かな聴覚体験の一形態であり、聴覚処理能力を向上させる助けになってくれる。ただ読むことも一種の認知体験であり、単語と意味をつなげる働きがある。