一方でマルチリンガルの場合は、ただ普通に日常生活を送っているだけでいい。複数の言語を管理するということは、それだけで認知機能のエクササイズになるからだ。
使う言語を選ぶ、使わない言語を抑制する、言語を使いこなす、言語を管理するといった認知機能のエクササイズが、マルチリンガルの脳内ではすべて自動的に行われている。
知っている複数の言語を操るにはこういった脳の体操が必要であり、この脳の体操によって脳が実際に変化し、高齢になってからも認知機能を維持できる確率を高めているのだ。
神経科学の世界では、「認知予備能」と「神経予備能」を区別するようになってきている。認知予備能が意味するのは、認知機能の衰えを補う能力全般のことだ。
対して神経予備能の意味はもっと限定的で、灰白質の増加、白質の統合、脳の構造や機能のつながりの強化など具体的な脳の「補強」をさしている。
どちらの予備能も、複数の言語を話すことによって向上するようだ。そして生涯を通じて、それぞれの言語をたくさん使い、堪能になるほど、認知予備能も神経予備能もさらに強化されていく。
平均年齢81歳の高齢者を対象にした研究で、英語と他の言語を話すバイリンガルは、同年代のモノリンガルに比べ、以前に見た写真の情景をよく覚えていることがわかった。
研究の参加者は、バイリンガルかモノリンガルかにかかわらず、非言語性知能、教育を受けた年数、英語の語彙は同程度だった。さらにバイリンガル同士を比較した研究では、第二言語の習得が早く、バイリンガルとしてすごした年数が長いほど、記憶力が優れているという結果になった。
3以上の言語を話す高齢者は認知障害のリスク減
また別の研究では、3つ以上の言語を話すマルチリンガルの高齢者は認知障害のリスクが低下することがわかった。さらに年齢と教育レベルを考慮して調整を加えても、やはり結果は同じだった。
2つの言語を話すバイリンガルと、3つ以上の言語を話す人を比較する研究はそれほど行われていないが、数少ない研究の結果によると、3つの言語を話すトリリンガルであることは、バイリンガルであることよりもさらにいくつかの認知機能の強化につながるようだ。
各国の公衆衛生研究を分析したところ、マルチリンガルの国ではアルツハイマー病の罹患率が低いということがわかった。国民が話す言語の数が平均して1つの国は、その数が平均して2つ以上の国に比べ、アルツハイマー病の罹患率が高くなっている。
アルツハイマー病の罹患率は話す言語の数が増えるごとに一貫して低下を続け、国民が話す言語の数とアルツハイマー病の罹患率の間には直接的な関係がある。
(翻訳:桜田 直美)
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