「自然資本」への対応には日本の伝統文化が重要だ SDGsと「鎮守の森」やアニミズム文化をつなぐ

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なお、以上は鎮守の森コミュニティ・プロジェクトの柱のうち①の鎮守の森・自然エネルギーコミュニティ構想に関してだが、②の鎮守の森セラピーに関しては、現在長崎県の壱岐市において関連のプロジェクトを進めている(鎮守の森コミュニティ研究所ホームページ参照)。

「30by30」と呼ばれる目標

ここまで自然観などの関連で「鎮守の森」について述べたが、最後にふれておきたいのは、こうした鎮守の森は生物多様性に関する「30by30」と呼ばれる目標ともつながるという点だ。

「30by30」目標とは、生物多様性の損失を食い止め回復させるというゴールに向け、2030年までに陸と海のそれぞれ30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標であり、2022年12月に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」にも位置づけられている。

この場合、まずその対象となるのは国立公園など公的に管理された保護地域だが、それだけでは足りないため、「OECM(Other Effective area-based Conservation Measures)」という考えが提案された。これは上記のような公的な保護地域以外での、民間を主体とした保全地域のことだが、日本の場合、企業などが保有する森林などに加えて、まさに「鎮守の森」つまり社寺の森や関連の自然が重要な意味をもっている。こうした流れの中で、環境省によって「自然共生サイト」という地域認定が2023年度から進められているが、このような面でも「鎮守の森」は現代的な意義を有している。

こうした伝統文化や自然観を再発見し、その国際的な意義も考慮しながら、「自然資本」や「ネイチャーポジティブ」に関する対応を進めていくことがいま日本において求められているのである。

なお、ここで述べてきた内容は、本サイト(東洋経済オンライン)掲載の記事で論じた「生命関連産業(生命経済)」や「ポスト・デジタル」「情報から生命へ」という話題ともつながっており、ご参照いただければ幸いである。

広井 良典 京都大学 人と社会の未来研究院教授

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ひろい よしのり / Yoshinori Hiroi

1961年岡山市生まれ。東京大学・同大学院修士課程修了後、厚生省勤務後、96年より千葉大学法経学部助教授、2003年より同教授。この間マサチューセッツ工科大学(MIT)客員研究員。2016年より京都大学教授。専攻は公共政策及び科学哲学。限りない拡大・成長の後に展望される「定常型社会=持続可能な福祉社会」を一貫して提唱するとともに、社会保障や環境、都市・地域に関する政策研究から、時間、ケア、死生観等をめぐる哲学的考察まで幅広い活動を行っている。著書に『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書、大佛次郎論壇賞)、『日本の社会保障』(エコノミスト賞受賞、岩波新書)、『人口減少社会のデザイン』(東洋経済新報社)など。

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