「自然資本」への対応には日本の伝統文化が重要だ SDGsと「鎮守の森」やアニミズム文化をつなぐ

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私自身も本戦略の検討過程の中で、「鎮守の森」に象徴される伝統的な自然観の現代的意義について発言してきたのだが、「鎮守の森」や「八百万の神」という言葉が政府の公式文書に盛り込まれたのは、私の知る限り初めてではないかと思われる。

「八百万の神」という言葉は、象徴的な意味で自然の中に無数の“神様”が存在しているという自然観だが、そこでは自然が私たち人間にとって大切な、ともに共生していくべき(あるいは「畏敬」すべき)存在であることが含意されている。だとすれば「生物多様性」や生態系の保全が重要だという考え方は、こうした自然観と実質的につながるのではないか。

言い換えれば、「生物多様性」という概念は、それ自体は生物学的あるいは自然科学的な知見をベースに生まれたものだが、私たちがその意義を実感し、それに関する保全活動や実践を行っていく際には、「八百万の神」「鎮守の森」といった、日本における伝統文化や自然観に引き寄せながら解釈していくことも重要となるだろう。

いま「文化」という点にふれたが、これは国連のいわゆるSDGs(持続可能な開発目標)をどう考えるかにも関わってくる。

ある意味で意外なことだが、巷でよく見かけるカラフルなSDGsの17項目には「文化」という項目は含まれていない。その理由は、SDGsの各項目はいわば是正されるべき「問題」や「課題」を列挙したものであり――貧困とか飢餓、ジェンダー平等といった具合に――、これに対して「文化」はそれ自体としてポジティブなものなので、17項目の中に入っていないということのようだ。

しかし私は、先ほど生物多様性と“八百万の神様”に関して述べたように、文化という要素は環境保全などの課題や活動に取り組むにあたって、その「モチベーション」としても非常に重要なものではないかと思う。「SDGsと文化」はむしろ不可分であり、この点も、私が先述の「鎮守の森コミュニティ・プロジェクト」を進めている背景の一つである。

「鎮守の森コミュニティ・プロジェクト」の展開

さて「鎮守の森コミュニティ・プロジェクト」の内容について簡潔に記すと、それはここまで述べてきたような「鎮守の森」を、 自然エネルギーの分散的整備や地域再生、心身の癒やしなどの現代的な課題と結びつけ、その新たな意義を再発見していこうとするものだ。具体的にはそれは、

①鎮守の森・自然エネルギーコミュニティ構想
②鎮守の森セラピー
③鎮守の森ホスピス
④祭り・伝統文化と地域再生・活性化

という柱からなっている(これらの詳細は私が主宰している「鎮守の森コミュニティ研究所」のホームページ鎮守の森コミュニティ研究所を参照いただければ幸いである)。 

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