「自然資本」への対応には日本の伝統文化が重要だ SDGsと「鎮守の森」やアニミズム文化をつなぐ

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秩父神社の「御神体」でもある武甲山(写真:G-item/PIXTA)
近年、徐々に関心が高まっている「自然資本」や「生物多様性・生態系」。経済界も「脱炭素」に続くテーマとして注目し始めている。この背景には何があるのか。『科学と資本主義の未来──〈せめぎ合いの時代〉を超えて』の著者で、一貫して「定常型社会=持続可能な福祉社会」を提唱してきた広井良典氏が解説する。今回は、全2回の後編をお届けする(前編はこちら)。

「自然資本」への具体的対応

近年大いに関心が高まっている「自然資本」というテーマについて、前回はそうした話題を考えていく際の基本的視点について述べた。

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今回はより具体的なレベルで「自然資本」や生態系保全への対応について考えるとともに、このテーマを深めるにあたって実はきわめて重要になる、「鎮守の森」などの日本の伝統文化や自然観について述べてみたい。

たとえば次のような議論がある。すなわち、「日本は国土の約7割が森林で、“森林大国”と呼ばれるにもかかわらず、木材の自給率は40%程度と低い(2022年で40.7%〔林野庁データ〕)。これは外国からの安い木材輸入に頼っているからであり、したがって多少価格は高くとも、国内材をできるだけ買うようにすべきであり、それによって木材の国内循環も促進されることになる」といった内容の議論である。

「安い」ものを買えばよいというのは他でもなく「市場経済」の論理だが、市場経済はボーダーレスであり、そこには国境つまり国内産か海外産かという区別はない。

だから市場経済の論理からは“安い木材輸入に頼る”のは当然である。私たちはこうしたテーマを、特に「自然資本」や生態系保全との関わりにおいてどのように考えたらよいのだろうか。

このような話題に関して、本稿の冒頭でふれた、昨年(2023年)3月に策定された「生物多様性国家戦略2023-2030」の中に次のような文章がある。

次ページ森林や生態系保全の現状を率直に批判
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