「自然資本」への対応には日本の伝統文化が重要だ SDGsと「鎮守の森」やアニミズム文化をつなぐ

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こうした試みはなお試行錯誤の状況だが、ここでは①の鎮守の森・自然エネルギーコミュニティ構想について、最近の動きの一例を紹介させていただきたい。

秩父市での取り組み

埼玉県秩父市での展開で、秩父は秩父神社の夜祭がユネスコの世界無形文化遺産に登録されたことにも示されるように、「鎮守の森」的伝統の豊かな地域である。こうした場所において、地元の有志の方々と、私たちのプロジェクト・グループである鎮守の森コミュニティ推進協議会(代表理事:宮下佳廣氏)のメンバーが共同出資して「陽野(ひの)ふるさと電力」という会社を設立して事業を進め、2021年5月に50キロワット(約100世帯の電力を供給する規模)の小水力発電設備の導入に至った。

幸いこの活動は、令和4年(2022年)緑化推進運動功労者・内閣総理大臣賞を受賞することにもなった。さらにこうした活動を発展させ、小水力発電の売電収入を活用して近隣の武甲山の環境整備を行うという構想もある。

先述のように武甲山は秩父神社の“御神体”なのだが、戦後一貫して石灰岩の採掘がなされて山容が大きく損なわれており、地元の高校生などからも「武甲山がかわいそうだ」といった声が上がっていた。地域の人々が協力してエネルギーの地産地消に取り組み、それを通じて地域のシンボルあるいは心のよりどころである「鎮守の森」の保全を行うというのは意義深いことと思われる。

これは先ほどの「SDGsと文化」という話題ともつながり、このように伝統文化や地域への愛着という点は、「自然資本」や生態系保全にとっての重要な「モチベーション」となるのだ。

「鎮守の森」について言えば、こうした「八百万の神様」的な自然観が(かろうじてとは言え)保存されているのは世界的に見ても貴重なことだろう。ジブリ映画が国際的な支持を得ていることに照らしても、また先述のように機械論的ではない自然観が現代的な重要性をもつに至っていることからも、生態系保全や生物多様性の文脈で、そうした日本における伝統的な自然観を世界に向けて発信していくという発想は大切と思われる。

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