航空機事故「責任は誰に?」の非難が無意味な理由 ブラックボックス解析で見えてくる意外な事実

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しかしカイロ・アプローチが軍に連絡をとっても混乱は増すばかりだった。そもそもこのときエジプト軍は、ミグ戦闘機を一機も空中配備していない。

114便はとうとう翼の根元部分を銃撃され、落下し始めた。このときようやく副操縦士が戦闘機に描かれたダビデの星に気づいた。戦闘機はエジプト軍のミグではなく、イスラエル軍のファントムだった。

114便が航行していたのは、エジプトのカイロ上空ではなく、イスラエル占領下のシナイ半島上空だった。その事実に気づいてさえいれば、114便はレフィディム基地に緊急着陸し、すべて解決していただろう。だが、もう何もかも遅すぎた。

真実のみが将来の事故を防ぐ

さて、この事故の責任は誰にあるだろう? 民間機を撃ち落としたイスラエル空軍か? 航路を外れて飛行し、ファントム戦闘機の指示を理解できなかったリビアン・アラブ航空のクルーか?114便が航路から逸脱しているという警告を、もっと早い段階で出せなかったカイロ・アプローチか? それとも責任は全員にあるのか?

ここでひとつはっきりしているのは、実際に何が起こったのかを理解する前に、勝手な非難をするのはまったく無意味だということだ。悲劇の「犯人」を吊るし上げれば、ひとまずの満足は得られるかもしれない。そういう考え方のほうが人生はシンプルだ。

脊髄反射的な関係者叩きは、えてして醜い非難合戦につながる。ビジネス、政治、軍事の世界では、責任のなすりつけ合いは日常茶飯事だ。だが、当の本人には、まったく悪気がないことが多い。みな、本当に相手のせいだと思っている。

どんなミスも、あらゆる角度から検討して初めて、相反する出来事の表と裏を覗き見ることができる。その過程を経てこそ、問題の真の原因を理解できる。どんな間違いがあったのか知らないままで、状況を正すことなど不可能だ。

114便の事件は詳しく調査され、その結果、軍隊による民間機への不用意な攻撃を抑止する法整備が行われた。そして1984年5月10日、民間航空機の領空侵犯問題に関わる「シカゴ条約」の改正議定書が、国際民間航空機関の臨時総会において採択されている。

ブラックボックスの分析が、悲劇の再発防止に貢献した証だ。進化のための舞台はこうして整った。

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マシュー・サイド コラムニスト、ライター

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ましゅー・さいど / Matthew Syed

1970年生まれ。イギリス『タイムズ』紙の第1級コラムニスト、ライター。オックスフォード大学哲学政治経済学部(PPE)を首席で卒業後、卓球選手として活躍し10年近くイングランド1位の座を守った。英国放送協会(BBC)「ニュースナイト」のほか、CNNインターナショナルやBBCワールドサービスでリポーターやコメンテーターなども務める。

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