航空機事故「責任は誰に?」の非難が無意味な理由 ブラックボックス解析で見えてくる意外な事実

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やがて航路を外れているのではないかと疑い始めた機長が、航空機関士に対してフランス語で懸念を口にしたが、副操縦士には何も言わなかった。

そして13時52分、カイロ・アプローチ(空港周辺の管制)から空港への進入許可が出た。しかし、空港からの誘導電波が伝える滑走路の位置は、機長が想定していた進入経路とは異なっていた。機長の混乱は高まるばかりだった。

コックピットからの景色

彼らが機体の位置を確認しようと奮闘する中、予期せぬ事態が起こる。突然、あたりに轟音が鳴り響いたのである。気づいたときには、114便は複数の戦闘機に囲まれていた。

戦闘機の機体には大きく「ダビデの星」(ユダヤ教・ユダヤ民族を象徴する星印)が描かれており、イスラエル軍のファントム戦闘機であることは明らかだ。しかし副操縦士はこれをエジプト軍のミグ戦闘機と誤認した。他の2人にも「ミグ戦闘機が4機後方にいます」と伝えた。

リビアとエジプトは友好関係にあったことから、114便のクルーはこう考えた。やはり自分たちは航路を逸脱していたのだ。だから味方の戦闘機がカイロ空港まで誘導しようとしてくれているのだろう。

そこで機長はカイロ・アプローチと交信した。「こちらの航路に問題があるようですが、現在4機のミグ戦闘機が後方についてくれています」

ところがそのとき、戦闘機の1機がコックピットのそばを併飛行し始めた。機長が見ると、しきりに何か手振りをしている。どうやら緊急着陸を命令しているようだが、その態度は威圧的だ。いったいどういうことなのか?

戦闘機は114便の機首前方に曳光弾を発射した。カイロには民間空港のカイロ・ウェストと、軍用空港のカイロ・イーストの2つがある。114便のクルーは自分たちがカイロ・ウェストを通り過ぎ、カイロ・イースト上空に侵入したため、さっきの強制着陸の指示は、民間空港へ戻れということだったのかもしれない、と考えた。

そこで114便は西へ旋回し、カイロ・ウェストに向かって降下を始めた。そしてランディング・ギアを降ろし、着陸態勢に入った。しかし眼下に見えてきたのは、民間空港のカイロ・ウェストではなかった。

そこには軍用機や格納庫が並んでいたのである(実はこのとき彼らが着陸しようとしていたのは、カイロから約160キロメートル以上も離れた、イスラエルのレフィディム空軍基地だった)。

なおも混乱が増す中、114便はカイロ・ウェストを目指して上昇し、再び西へ向かった。しかしこの時点で、「ミグ」は114便の翼の先端を銃撃し始めた。

14時09分、機長はカイロ・アプローチに無線連絡した。「我々はあなたの国の戦闘機に銃撃されています」。すると応答があった。「(エジプト軍当局に)すぐに民間機だと伝えます。(中略)ただこちらでは貴機の位置が確認できません」

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