自分の失敗を隠す「内因」が認知的不協和だとしたら、「外因」とも言えるのが、非難というプレッシャーだ。非難の衝動は、組織内に強力な負のエネルギーを生む。
何かミスが起こったときに、「担当者の不注意だ!」「怠慢だ!」と真っ先に非難が始まる環境では、誰でも失敗を隠したくなる。しかし、もし「失敗は学習のチャンス」ととらえる組織文化が根付いていれば、非難よりもまず、何が起こったのかを詳しく調査しようという意志が働くだろう。
適切な調査を行えば、ふたつのチャンスがもたらされる。ひとつは貴重な学習のチャンス。失敗から学んで潜在的な問題を解決できれば、組織の進化につながる。
もうひとつは、オープンな組織文化を構築するチャンス。ミスを犯しても不当に非難されなければ、当事者は自分の偶発的なミスや、それにかかわる重要な情報を進んで報告するようになる。するとさらに進化の勢いは増していく。
「世界の複雑さ」を受け入れる
複雑な世界から物事を学ぶには、その複雑さと向き合わなければならない。何でも単純に考えてすぐに誰かを非難するのはやめよう。肝心なのは、問題を深く探って、本当に何が起こったのかを突き止めることだ。その姿勢があれば、隠蔽や自己正当化のない、オープンで誠実な組織文化を構築することができる。
では114便はなぜファントム戦闘機の警告に従わず飛行を続けたのか? なぜ逃げるようにエジプトの方向へ旋回したのか? なぜパイロットは、自分たちはおろか乗客の命まで危険に晒そうとしたのか?
実はこれらの答えはすでに見つかっている。機体の爆発炎上に耐えたブラックボックスが回収されたからだ。これによって適切な調査が行われ、のちにシステムの改善がなされた。
もし感情的な(えてして独善的な)責任のなすり合いで事故を単純に片付けていたら、このような進化は決してもたらされなかっただろう。
事件当日、114便はリビア北東部のベンガジから隣国エジプトのカイロへ向かっていた。この日、エジプトでは砂嵐が発生しており、視界が悪化していた。
コックピットの前列左にはフランス人の機長、その後ろには同じくフランス人の航空機関士。副操縦士はリビア人でフランス語が流暢ではなく、機長と航空機関士の会話には参加していない。
実は、このとき114便はすでに航路から60マイル(約100キロメートル)以上外れ、エジプトの軍事施設上空を飛んでいたが、3人ともまったく気づいていなかった。
本来ならとっくにエジプト軍の警報システムが作動しているはずだ。しかしこの日は砂嵐などシステムに影響する要因がいくつかあり、114便は探知されないまま、イスラエル占領下のシナイ半島上空に差しかかろうとしていた。
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